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YIDFF 2005 インターナショナル・コンペティション
水没の前に
李一凡(リ・イーファン)監督、鄢雨(イェン・ユィ)監督 インタビュー

自然な関係でした


Q: はじめに撮ろうとしていた映画と、実際の映画とではどう変わったのですか?

LY&YY: この町は李白に詠われた観光地です。美しく撮ろうと思うのは誰でも考えるし、町の情景の美を拒否する人もいないはず。だけど、実際にあの場に行って観たものというのは、非常に現実的で、真実なもの。それは、景色や詩に詠われるような情景の美よりも、もっと大切だと感じました。実際に私たちが衝撃を受けた、たくましさや住民の粘り強さ、避けることのできない状況の中で立ち向かっていく民衆の力。そういう非常に心動かされたものを撮りました。もともと、この町にはよく行っていたけど、人々の精神、生活態度に惹かれるようになったのは、彼らの生活の中に深く入り込んで、それを理解してからです。

Q: どのくらいの期間で、何時間撮影しましたか?

LY&YY: 11カ月間滞在し、147時間撮りました。フルショット方式で、個人やひとつの物事に、焦点を当てたのではなく、起こったすべての状況、雰囲気全体を収めるものだったので大変でした。はじめはもっと長くするという話もあったけど、結局は映画に適した、作品に相応しい長さにしました。実際に町に入ると現場の変化が激しく、物事があまりにたくさん発生していて……、朝7時から深夜までかけて撮ったりしました。いろんなことが様々な場所で起こって、あっちこっちで撮影しました。ひとつ意識していたのは、撮っているのはニュース報道ではないということでした。

Q: 固定カメラが多く、取材対象との会話の場面や、カメラに向ける視線がなかったのはなぜですか?

LY&YY: いろいろごちゃごちゃ起こってはいたけれど、そういった状況をできるだけ静かに捉えたかったので、撮影の前日予想できる場面は、どういうショットにするか ふたりで話していました。町のことも、町の人たちのことも十分な調査をして、彼らとの関係も非常に良いもので、撮ることで彼らに害を与えることはないと、彼らは理解していました。友だちのような自然な関係でした。どんな人たちも、私たちに会議の時や家探しの時、家を爆発する時、声をかけてくれました。

 また、はじめから取材対象との会話は、なしと決めていました。現場の人たちの会話で、その状況を追うというやり方のほうが、リアリティーが浮かびあがると思いました。彼らとの交流に時間をかけたので、カメラがあることが不自然ではないし、私たちのことを信頼してくれていました。またカメラの位置も工夫しました。彼らは、自分の家が無くなるという大変な問題に直面しているので、撮られることは気にしていられなかったのです。中国の多くのドキュメンタリーは、被写体の方がカメラを意識して装ってしまうことがあります。撮られる人たちと、自分たちは同じ人間で、上も下もありません。私たちも彼らも同じところで食事をしていました。それは撮っていく中で大切なことだと思います。けれども、撮る側、撮られる側の距離は意識していました。実際に彼らのために何かできるわけではないので、あまり入り込むということはできません。私たちにできることはこの人はこうしていたよ、と教えてあげることぐらいです。

 この映像は町の記録であると同時に、人間関係の記録でもありました。今、この町の人たちはばらばらになり、町は水の中です。撮っておきたかったですし、撮ってよかったと思います。

(採録・構成:西谷真梨子)

インタビュアー:西谷真梨子、橋浦太一/通訳:遠藤央子
写真撮影:阿部さつき/ビデオ撮影:橋本優子/ 2005-10-12