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YIDFF 2003 第18回国民文化祭・やまがた2003 ドキュメンタリー映画フェスティバル
カレーライスの女たち
松江哲明 監督インタビュー

セルフドキュメンタリーで恋人を撮るということ


Q: この作品を作るきっかけは?

MT: 大阪の劇場・プラネットの藤岡さんからオファーがありました。30分間で、監督の自由な題材で作品を作って発表する、という企画があったんです。そこで村上賢司監督(『川口で生きろよ!』)や僕らには、セルフドキュメンタリーというコンセプトだけが、与えられました。

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Q: どうして『カレーライスの女たち』という題材を選んだのですか?

MT: 僕は、アダルトビデオが大好きなんですが、女性にインタビューしてセックスをするという構成は、すべて一緒なんです。つまらないものも多いけど、女性を撮っているのに、作者が見えてくるものが面白い作品なんですよ。それで僕も、関係性が違う女性たちに、同じ行為をしてもらって、その違いから、それぞれの個性が見えてくる、という作品を撮りたいと思っていたんです。僕が女性を観ていて魅力的だなと思う瞬間は、料理をしている姿なんですね。それでカレーライスというのは一番簡単で、まず女の子が一番最初に作る料理らしいし、何より僕が好きな料理だからです。

Q: 出演者の選択は?

MT: 僕が興味をそそられる対象で、関係性がバラバラの人です。最初の人は久しぶりに会う知り合い、2番目は女友達で、最後に彼女を撮影しています。最後が一番関係性が親密なので、会話が少なくなると予想してこの構成にしました。カメラというのは、口実になるんですね。関係性を変えたいとか、この人をもっと知りたいと思う時、カメラがコミュニケーションの道具になるんです。

Q: この作品は、「カレーライス」が「恋人」の象徴になっていると思うのですが、自分の彼女がこの作品に出演することに関しては?

MT: 今回は、初めて彼女を撮ったんですよ。一番僕に近くて、付き合いが長くて、何も作品がないのは嫌だなと思ったんです。『あんにょんキムチ』で、おばあちゃんや父親の言葉を残せたというのは良かったと実感したので。

Q: 恋人という近い対象を撮るということでは、平野勝之監督の『由美香』や、原一男監督の『極私的エロス』のような、対象を追いつめてゆくような作品もありますが。

MT: それとは違うタイプの作品を、観てみたかったんですね。僕にはどんな人を撮っても「面白く見せたい」という気持ちがあるんです。セルフドキュメンタリーは、作品を面白く見せられるかどうかは撮り手の問題なんです。今回、女性には「私なんかで面白いの?」と言われたんですが、なんでもない人たちを撮って、魅力的に見せたかった。追いつめてゆくようなことは、やりたくなかったです。原さんの作品はとても大好きで、尊敬しているのですが、僕の作家としての性質は違うんです。原さんの作品は、16mmだからこそ撮れたのだろうし、僕のこの作品は、ビデオじゃなければ撮れなかったと思うんです。

Q: 99年の山形映画祭に参加してからどんな変化がありましたか?

MT: これはお世辞ではなくて、山形映画祭があったから、今も映画を作り続けていられるんだと思っています。山形に出品したことで、他の映画祭にも参加出来たわけだし、いろんな出会いもあったわけだし。「上映する」ということについても、ミューズで上映して、質疑応答でお客さんに直に接して、作者としての責任感というものがでてきました。作ることや基礎的なことを教えてくれたのが、日本映画学校で、それを実践する方法を教えてもらったのが、山形映画祭でした。「人に見せる」ということを教えてもらえた、僕にとってもうひとつの映画学校だったような気がします。

(採録・構成:我妻千津子)

インタビュアー:我妻千津子
写真撮影:加藤孝信/ビデオ撮影:加藤孝信/2003-09-28 東京にて