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YIDFF 2003 アジア千波万波
雑菜記
許慧如(シュウ・ホイルー) 監督インタビュー

それぞれのGood Lifeが調和するとき


Q: この作品を作られたきっかけは?

HH: ずっと父を撮りたいとは思っていました。それが何故かは本当のところ良く分からないのですが、親しい人をカメラを通して見てみたいという思いはあったと思います。そして学校で課題が与えられた時、そのきっかけを得ました。私はまず父に沢山のインタビューをすることから始めたんですね。内容は私が生まれた時のことや、母が亡くなった時のことなどです。私はそこからある物語が生まれることを期待していたのだと思います。でも、父から返ってくる答えは、実はある程度予測ができるものでした。私はそんな私と父が互いに了承している話を撮ることに、一体何の意味があるのだろうかと感じ始めました。そんな時、深夜のパトロールの途中、暗がりの中で煙草を吸う父の姿を目にし、これだと思ったのです。それは父の孤独、或いは私自身の孤独、そしてもしかしたら人である限り誰もが抱えている孤独を感じる場面であり、同時に人はとてもシンプルな感情、小さな温かみに寄り添いながら、何とか自分の命を保っていることを、私に感じさせました。それはまた本当の命の真実に近づいたような感覚でした。この作品は、娘から見た父の生活のすべてを記録したものなのです。

Q: 親しい人とカメラを通して向き合い、改めて感じたことはありましたか?

HH: 私は撮影を通して父の生活スタイルをみたわけです。そこには彼独自の価値観、あるひとつの完成された世界があり、その中で父は彼にとってのGood Lifeを送っていました。私も昔は父の生活はこれでいいのだろうか?という思いがあり、あれこれ干渉したりもしました。しかしその結果は、必ずしも彼のGood Lifeではなかった。撮影を終えた今、私は父に彼のGood Lifeを、自在に自分らしく送ってほしいと、心から思っています。

Q: 二人の対話がほとんど無い作品の中で、お母さんの墓参りの後、お父さんが初めてカメラ越しに監督に声をかけるシーンが印象的だったのですが。

HH: 実は、撮影当初母の死に言及するつもりはなく、ただ単に父と娘それぞれの生活がまるで平行線の様である様子を、客観的に淡々と描こうと思ったのです。ところがあの場面を撮影してから、平行線として描かれていたふたつの生活が、接点を持ってしまった。そこから、映画を作る位置というのも変化したと思います。

Q: 二人が飼っている犬も多く登場しますね。

HH: 私たちそれぞれと犬、また犬同士の関係は、ある種私と父の関係を象徴するものだと思います。例えば、父が仔犬をごしごし洗っているシーン(皆さん笑っていましたね)があったと思いますが、そこには父が小さい頃の私をどういうふうに扱っていたかが、ちょっと反映されていると思います。最後の大人の犬と仔犬のシーンにも、父と私の関係が重なる気がします。

Q: このタイトルをつけた理由を教えてください。

HH: 雑菜とは、父が映画の中でも食べている、色々なものを全部一緒くたに煮込んだ食べ物のことをいいます。父は一人暮らしだから、簡単で鍋一つで済むあの料理を毎日食べてるわけですが、あれはもう一体何という料理なのか名付けようが無いし、本当はまずい物かもしれません。けれど栄養は全部あの中に入っているわけですね。それはあたかも人生そのもののような気がするのです。人生の中にも本当に色々なものが沢山紛れ込んでいて、その全部の味はとても言葉では言い表せない。でもそれが人生だと思うのです。

(採録・構成:横田有理)

インタビュアー:横田有理、橋本優子/通訳:秋山珠子
写真撮影:松永義行/ビデオ撮影:園部真実子/ 2003-10-13