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YIDFF 2003 アジア千波万波
迷路
カルパナ・スブラマニアン 監督インタビュー

大切なのは探すプロセス


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Q: この作品を制作した経緯は?

KS: この作品は、ザ・クロッシング・プロジェクトの一部として作られました。ザ・クロッシング・プロジェクトは、バナーラスについてのマルチメディア展示です。これは、Sacred World Foundationで作られ、私はいまそこで仕事をしています。Sacred World Foundationの企画者で、このフィルムのプロデューサーでもあるランジート・マックニーの狙いは、コンピューターやマルチメディアといった新しい技術を使って、文化や精神性、伝統などの情報をよりインタラクティブに伝える革新的な方法を探ることなのです。彼はその試みの場としてバナーラスを選んだわけです。私は彼と一緒に、このプロジェクトのコンテンツを考え、現場でいくつかの展示を制作しました。このプロジェクトは国際デザイン賞を受賞しています。

Q: 撮影はどのように行ったのですか?

KS: 撮影は3人のチームで行い、私がカメラを担当しました。自分がカメラを持つということは重要でした。この作品の進行自体が、どういう人に出会うかによって形作られているので、自分がカメラを持っていればこの人を撮りたい、この人と話をしたいと思ったときに、すぐそちらにカメラを向けられるからです。とても感覚的で、即興的な方法だと思います。

Q: 撮影の途中では監督も道に迷いましたか?

KS: ええ、いつも(笑)。

Q: 観客自身も、迷路の中を彷徨っているような感覚を味わえるのが魅力ですが、工夫されたことは?

KS: この撮影には、スクリプトがなかったので、撮影の段階では、何が起こるか分からず、私は道に迷いながら、いろいろな人々に出会い、とにかく撮っていくことが重要でした。編集では、撮影した沢山の映像を繰り返し見ながら、人物や場所、出来事などの繋がりを自分の中に見つけ出し、ひとつの作品となるように結び付けていくという作業を行いました。実際に起こったことを再現するという形ではなく、自由で芸術的な発想のもとに、ひとつの作品にまとめたのです。それはとても楽しいプロセスでした。

Q: 「目的地は何処だろう?」という疑問を持ったのですが、監督自身は何処か目的地を決めて撮影されたのでしょうか?

KS: 撮影は、3つの場所をあらかじめ決めて行いました。まず、その一箇所に向かって、「ここへ行きたい」と人々に道を尋ね、いろいろと迷いながら進み、そこへ辿り着いたら、また次の場所へ向かうという具合です。最終的に、編集の段階で、何処へ辿り着くかという目的地は、出さないことに決めました。何故なら、大切なのは目的地ではなく、“探すプロセス”そのものだからです。

Q: バナーラスについて撮ってみたいものは、沢山あると仰っていましたが、次回作は決まっていますか?

KS: まだはっきりと決めていませんが、基本的に私が興味を抱いていることは“町の意味”です。地図を見てもその町のことはよく分からないわけで、本当に町のことを理解しているのは、そこに住んでいる人たちなんですよ。例えば、私がある家の前を通りかかったとき、そこはきれいな窓のある家だなと思うだけかもかもしれないけれど、そこに暮らす人にとっては、そこを通りかかったときに、「あ、ここは300年前にこういう人が住んでいて、こういうことがあった家だ」というような意味があります。町の中の石や壁、ひとつひとつに意味があるのです。そうした“現実の町の中に隠された町”を見つけるということに、とても興味があります。バナーラスには3000年以上の歴史がありますが、ここはモニュメントになってしまった町ではなく、今でも生きている町なのです。

(採録・構成:横田有理)

インタビュアー:横田有理、松本美保/通訳:金子嘉矢
写真撮影:佐藤朱理/ビデオ撮影:加藤孝信/2003-10-11