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YIDFF 2003 アジア千波万波
円のカド
林健雄(ラム・キンホン) 監督インタビュー

どの作品とも違う方法を試みたかった


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Q: この作品を制作したきっかけを教えて下さい。

LK: アメリカのカリフォルニア芸術学院在学中に、映画を撮ることになったのですが、資金が足りず、どう倹約して映画を撮ろうか、ということを考えざるを得ませんでした。それならば、全部自分でやるという、身軽な状態でやるのがいいのではと思い、脚本から監督、製作までを、すべてひとりでこなせるような仕組みにする必要がありました。では、そのような環境で、どうすれば面白いものが作れるかと、自問自答を繰り返し、まず最初に思いついたのがやはり香港という街でした。私の生まれた土地であり、誇りを持っているわけではないけれど、心から憎むこともできない、愛憎の感情が入り混じった場所です。そして、私は、かつて香港で、身体障害者の人たちに、絵を描くことや本を読むことなどを教える指導員をしていたことがあり、彼らと接点を持っていたので、香港と身体障害者という、この2つを関連づけようと思い立ちました。

Q: 身体に障害を持った人たちに語らせたのはなぜですか?

LK: 香港の人口はおよそ700万人で、そのうち、身体にハンディキャップを抱えた人たちは、10%に上ると言われています。彼らは、政府から社会的な保障を与えられないまま生活しています。私は、アメリカで映画を学ぶ前、香港でフォト・ジャーナリストとして仕事をしていたんですが、この仕事を通じて、そのような身体障害者が、いったいどんなふうに世界を見ているのだろう、と思うようになりました。彼らを、何らかの方法で描きたいという希望も、同時に持っていました。アメリカへ渡る前もその後でも、身体障害者を題材にした多くの映画作品を見ましたが、私はそれらのどの作品とも違う方法を、試みたいと思っていたのです。

Q: まるで写真のように固定カメラで風景を切り取っているのはなぜですか。

LK: 身体障害者の人たちが、世界をどう見ているのかということをとらえるとすれば、彼らをカメラで追ったり、話しているのを撮影したりするわけですが、そのようにカメラを動かしてしまうと、私の主観が入るので、できるだけ、彼らを客観的にとらえるために、カメラを据えたままで動かさない、というシンプルな方法を選択しました。ラストでは、それぞれの風景を、別アングルから撮っています。これは、人はそれぞれ違う物の見方をしているということを表現しています。

Q: 『円のカド』というタイトルは、何を意味しているのですか?

LK: 円を鉛筆で描いてみて下さい。描かれた円の線上には、カドにあたる点がありませんね。なめらかな曲線が続いているだけです。人がそこに立っていると想像してみると、円というものにおいては、人は特定の場所にいるとは言えない、ということがわかると思います。3人の登場人物が語っている場所は、確かに香港ですが、彼らの口から“香港”という言葉は全く出てきません。しかし、我々は、彼らの語りから、香港のイメージを感じ取ることができるはずです。提示されるイメージによって、見る側は特定の場所を、自由に感じ取っていくのです。また、逆に円には無数のカドが存在している、と考えることも可能です。私は、香港に住む身体障害者という、特定の場所と特定の人たちを見せたかったわけではなく、彼らや我々と似たような人や風景が、あらゆる土地に存在しているということを表現したかったのです。

(採録・構成:小谷真代)

インタビュアー:小谷真代/通訳:斉藤新子
写真撮影:佐藤朱理/ビデオ撮影:加藤孝信/2003-10-13