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YIDFF 2003 アジア千波万波
一緒の時
沙青(シャー・チン) 監督インタビュー

家族の一員になって撮りました


本作品のプロデューサーでありパートナーでもある季丹(ジ・ダン)さんもご同席。お二人でインタビューに答えてくださいました。


Q: この家族の持つ美しさが見事に描かれている映画でした。この作品を制作するに至った経緯について教えてください。

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SQ: 当初は、今の中国社会で最底辺にいる農民達のドキュメンタリーを撮りたいと思っていたので、各地域にある歴史や文化・芸能を研究している機関に題材を求めました。この家族はそこで紹介された3、4家族のうちのひとつです。農民の中の芸術家を探していたのです。切り紙の技術が素晴らしいお父さんを中心に、障害児を抱えながら、彼がどのように芸術に取り組むのかを撮ろうと思っていました。ところが、息子の様子を見ているうちに、彼を中心に撮りたくなりました。障害を持ちながらも、足で感情を表現して家族とコミュニケーションをとる彼の日常に、興味がむいていったのです。

Q: 被写体との間に信頼関係が無ければ成立しない作品ですよね。

SQ: 対象との関係は、まず家に住みついて友達になるところからつくっていきました。そして、お互いのことをよく話し合います。もちろん自分がどういう人間なのかも話します。そうやって家族の一員になって撮りました。家族がカメラに慣れるまで時間がかかると思っていたので、住み着いてすぐカメラは回していました。いつ本格的に撮れるか計算はしていませんでしたが、慣れたらすぐ本格的に回そうと思っていました。この家族はすぐ慣れたので、撮影に要した時間は全部で半年ぐらいです。撮影中は感情的になる時もありました。お母さんが帰ってきたシーンは、実は自分も泣きながら撮っていました。編集の時もひとりで泣いてしまうこともありました。でも結果的に完成した作品は、観る人には涙を流して欲しくない作品です。苦難だけをみて欲しくありません。苦難の後ろにあるものを観て感じてほしい作品です。

Q: お二人のこれからの制作予定は?

SQ: 今回の映画祭は、素晴らしい作品や素晴らしい制作者に出会えた、運命的な場所といえます。台湾の呉乙峰(ウー・イフォン)氏と出会えたり、『フラッシュバック』という作品にも出会えて、ドキュメンタリーの頂上を知った感じです。自分の作品がまだまだであることを知って、実は今自分の作品を観たくない心境です。次回作は今準備しているところで、本格的には撮っていませんが、今の中国がどんどん変わっていく中で、人間の孤独さを表現したものを撮りたいと思っています。映画作りの方向は変わらないのですが、今回が出発点だと思って進んでいきたいと思っています。

季丹(ジ・ダン): 彼は感性的な考え方で、私は反対に理性的。例えば今回の作品では、私の役割は全体的な構成をどうしたらいいか、クライマックスはどうもっていくかのようなことを提案することでした。また彼は人とつきあうことが苦手なので、対象との関係作りに私も協力するし、私は編集が苦手なので、彼に手伝ってもらっています。制作上でも、お互いに支えあえる関係を持っていることは、幸せなことだと思っています。

Q: この家族のその後について、よろしかったら教えてください。

季丹(ジ・ダン): 子どもは奇跡的に回復して元気です。大きくなっています。お母さんは私たちが紹介した北京の老人ホームで働いています。家族の経済状況は良くなっているようです。

(採録・構成:遠藤暁子)

インタビュアー:遠藤暁子、佐藤亜希子/通訳:季丹(ジ・ダン)
写真撮影:山崎亮/ビデオ撮影:園部真実子/2003-10-13