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YIDFF 2003 インターナショナル・コンペティション
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キリアコス・カヅラキス 監督インタビュー

一人一人の物語を


Q: ギリシアの難民の人々を本作品で取り上げることになったきっかけは?

KK: 過去の10年間において、私が主題として選んだ難民の人々は、彼らがギリシアの中で年々増加しているために非常に重要です。このことは我々の日常の社会生活に大きく関わってくるものであり、また今までにない新しい問題です。難民のギリシアにもたらす変化や問題の中には、都市環境や居住環境の変化、人種差別、労働の搾取、難民女性や子供の劣悪な生活状況などが挙げられます。これらは何らかのかたちで隠され、目に明らかなものではありません。難民を本作品の主題として「選んだ」のではなく、彼らの姿が我々の生活の一部となっているがために、むしろ必然の結果としてそうなったのです。

Q: この作品によって最も表現したかったことは何ですか?

KK: 私たちの作品には個々の難民の人々のそれぞれに、非常に印象的な物語というしっかりとした基盤があり、この点では私たちは幸運であったといえます。クルド、バングラディシュ、イラク、アルバニアなどの一枚岩的な民族の集団ではなく、それぞれに名前と顔を持つ彼ら個々人の、固有の物語を我々は描きたかったのです。例えば作品中にガーナからのフランクという青年が登場します。私たちは一黒人男性やガーナ人ということではなく、フランクという個人の姿を描きたかったのです。彼は敬虔なクリスチャンです。困難の中にあっても、信仰が何らかのかたちで彼を救ったのです。彼は足を失っているにもかかわらず、教師であり、またサッカーをしたりもしています。そしてまた楽観的であり、人生を幸福に享受しています。一方でフランクと同居する青年は、その難民生活のためにすっかりふさぎこんで暮らしています。このように同じガーナからの難民であっても、それぞれに異なる2つの固有な物語が存在するわけです。こうした難民の人々の個人としての姿を描くことこそが我々の求めたものであり、映像の編集をしていく上で注意を払ったことなのです。

Q: 中心人物のイリーナという難民の女性がその苦難にあふれた人生について「もう語りたくない」と何度も口にします。しかし、監督はこの「語ることが困難なほどの苦しみ」を見事にとらえ、表現しているように思われますが?

KK: 私たちは、ビデオカメラで撮影と編集をそれぞれ110時間をかけて行いました。この題材を作品として形にするのには、多大な労力が要されました。なぜならこの主題のために我々は見せたくないもの、それは裸体やラップダンス、キャバレーなどになりますが、それらを見せなければならないからです。ですから、イリーナの「語りたくない」という言葉は、我々の作品制作時の課題をも表しているとも言えます。女性たちを好奇の目の対象にすることはできません。そこで、実際の難民の女性たちへのインタビューを一つにまとめて体現させたのがイリーナなのです。ですから彼女は他に我々がインタビューした多くの難民女性を代表しているとも言えるでしょう。イリーナの再現部分をまとめる作業の中で、事実から離れ過ぎず、感情的になり過ぎないようにするのは我々にとって重要であり、非常に難しいことでした。電車から飛び降りた女性、自殺した女性、国境で射殺された女性、これらは皆私たちの創作ではなく、実在した人々なのです。

Q: 本作品の政治性、芸術性についてお聞かせください。

KK: 個々の難民の苦難の背後には強国の帝国主義的な侵略による戦争があり、この点が本作品の政治学的なテーマになっています。しかし私は映画はこうした政治的な主張だけでなく、同時に審美的な形をも成さなければならないと考えます。政治的であると同時に美学的にも価値をもつということ、これは困難ではありますが大切なことです。

(採録・構成:早坂静)

インタビュアー:早坂静、桝谷頌子/通訳:金子嘉矢
写真撮影:佐藤朱理/ビデオ撮影:黄木優寿/ 2003-10-11