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YIDFF 2003 インターナショナル・コンペティション
レイムンド
エルネスト・アルディト、ヴィルナ・モリナ 監督インタビュー

映画が生み出される瞬間


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Q: なぜこの作品を撮ろうと思ったのですか?

VM: 映像作家として、アルゼンチンの知られざる歴史、ひいては自分たちのルーツについて、人々の記憶にとどめておくことは、非常に重要だと思ったし、個人的にも、そういうことが知らされていないと感じていたんです。2001年に、本国が危機的経済状況に陥った頃、新しい世代の間で、政治的な映画を作ろうという動きが起き、以来、レイムンドはそこで旗として掲げられる象徴的存在でした。

Q: 編集の際、気をつけたことは?

EA: 彼のことが語られるとき、どうしても、革命に情熱を傾けていた、政治的な主張の方に偏ってしまう。しかしこの作品は、様々なケースで残されていた映像、写真、音声、さらに彼の家族や知人の回想録などの中から、彼がいかに家族に愛情を注いでいたか、というような面も含めた、人間的な全体像が浮かびあがるものにしたかったんです。

Q: 彼の作品の中で、特に素晴らしいものは?

EA: 『裏切り者』は、AAA(アルゼンチン反共同盟)や軍事独裁による弾圧が厳しい時期に、言わば非合法に秘密裏に作られた映画で、後に、関係者が次々と亡命せざるを得なくなり、それ以外は失踪させられることになる。そういう意味でも、凄い映画です。それから、彼の遺作となった『働いても殺される』。これは、普通の労働者にインタビューをしているにも関わらず、特有の過剰な気負いや躊躇などが全く感じられない。観る者がじかに話を聞いているような、まるでカメラが存在しないかのような感覚なんです。

Q: 彼が、映画を制作している過程の映像が、多々出てきますが、影響を受けるところはありましたか?

EA: 労働者たち自身が、自らの置かれている悲惨な現実を訴える場として、彼が映画を用いさせる。一方的に与えられる既成のものとしてだけではない、現実社会をも変える道具として、映画が人々に生み出される瞬間を見、その幅広い可能性を実感させてくれました。

Q: 彼の作品を観た労働者たちが、滑稽に描かれた権力者を皆で笑ううちに、自分たちに彼らに対抗する力があるのではと、希望を持ち始めていましたね。

EA: 政治を扱う映画は、少なからず退屈になってしまうものですが、本来はそれではいけないと思うし、私たちも非常に気を遣っています。メッセージが届かなかったら、意味が無いわけですしね。

VM: 政治は政治、そのために人間的な部分が犠牲になるのは、仕方がないという考え方がありますが、本来、政治的に主張を持つことと、人間的に生きることは、一致しているべきだと思うのです。最後に出てくる犯罪者のうち2人が減刑、釈放されたのは、彼らに財界というバックがあり、ただでさえ、政治と経済が切り離せない中、特に国が深刻な状況だった時期で、時の政府が取引に応じてしまった。そしてそのバックというのは、過去、同じ弾圧する側にいた人たちなのです。

Q: 次の作品について。

EA: パタゴニアでセラミック工場が閉鎖し、普通はそれで終わるのですが、そこの労働者たちは、自主管理を始めてしまった。彼らは、言われた仕事をするだけの存在から、それまで、専門技師しか使えなかった機械を使用し始めたりするうちに、遂には人の上に立つ、責任の伴う仕事まで、すべて自分たちでするようになったんです。以前いた人たちが、機材を持ち出しに来ても、村人たちが労働者側を支持しているため、それ以外入れない状態にしている。そういう新しい世代の戦いに関するものです。

VM: 今作は、過去を見つめることで、今を見つめ直すものでしたが、次は、今を見つめることで、未来に繋がっていく作品にしたいと思っています。

※構成の都合上、お二人の監督のことばを、ひとりのお話としてまとめさせて頂いた部分があります。

(採録・構成:田中陵)

インタビュアー:田中陵、横田有理/通訳:星野やよい
写真撮影:横田有理/ビデオ撮影:黄木優寿/2003-10-12