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映画祭概要


 今年のインターナショナル・コンペティションには、はじめてビデオ作品が含まれることになった。従来アジア諸国などフィルム製作が経済的に困難なためにビデオで製作せざるを得ない事実があったが、最近ではビデオの特性を生かした新しいドキュメンタリーの方法が世界的に探究されている。今回特集が組まれるロバート・クレイマーも晩年にはビデオでの製作に果敢に挑んでいた。今回の応募でも7割ほどがビデオ作品であり、結果的に上映作品の4割がビデオ作品になった。フィルム作品でもビデオで撮影されたものが急増している。アジア作品の占める割合の大きさと相俟って、手法的にもヴァラエティに富んだプログラムとなった。

 アジア千波万波は、比較的若い作家たちの、テーマ的にも手法的にも様々な試みが見られて、今年もまた活気にあふれている。とくに韓国の女性作家たち、中国のDV作家たち、そして台湾の気鋭の作家たち。またインドなどにも今までにないテーマの追求が見られ、パレスティナ、トルコなど前回参加の作家たちが、さらに魅力的な作品とともに来形する。

 亀井文夫特集では戦前・戦後を通じて日本のドキュメンタリーの第一線で活躍し、現在の作家たちにも多大な影響を与えてきた作家の全貌を提示する。ドキュメンタリーの傑作群に加えてPR映画などの多くの作品は、亀井文夫の多彩な面をあらわすことだろう。最後の作品『トリ・ムシ・サカナの子守唄』で悲痛なテーマを自由奔放に作り上げた監督は完成直後に亡くなったのである。

 1997年に2度目の来形を果たしたロバート・クレイマー監督は、その2年後に『平原の都市群』の完成直前に急逝した。混迷する現代にもっともっと切り込んでほしかった監督だけに惜しんでも惜しみきれない。ここでは、単なる回顧ではなく未来を見据えて、クレイマーに触発されてポルトガルで始まった「ドクス・キングダム」セミナーの山形版も実施する。

 勅使河原宏監督、ヨハン・ファン・デル・コイケン監督も今年鬼籍に入ってしまった。その一方、小川紳介監督の未完の作品を中国の監督が仕上げ、また2度山形に参加したアメリカのバーバラ・ハマー監督は残された小川プロメンバーの人々へのインタビューを中心にこの希有な製作集団の本質に迫っているように、様々な視点からの継承・再検証は続いている。

 さて、今年の映画祭は?

山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局長 矢野和之