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1999-09-08 | アジア千波万波、上映作品48本!

アジア千波万波、上映作品48本!

 アジアの新進ドキュメンタリストを紹介するプログラム、「アジア千波万波」のラインアップが決定しました。例年より短編の多い、計48本。パレスチナやレバノンなど初登場の地域からの作品も選ばれ、アジアの広域にわたるドキュメンタリーづくりの盛り上がりがいっそう際だつ並びです。
 最も短い作品は4分。最も長い作品は180分。最も若い監督は17歳。
 アジア大陸の最も西の国トルコ、そして最も東の端の日本からの作品も上映されます。
 今年は特に若手と女性監督の活躍が目立ちます。48人の作家のうち14人の女性監督は、アラブ首長国連邦をはじめ中東からも。さらに、小型デジタルビデオカメラによる作品の急増がアジア一帯に見られます。
 今年の「アジア千波万波」では、全作品をはじめて英語と日本語の字幕でごらんいただけることになりました。映画祭最終日には、多種多彩 な48本の作品のうち、最も可能性のあるものに「小川紳介賞」が贈られます。
 また、今年はスペシャルプログラムとして別会場でVIDEO ACT!
企画で日韓ビデオアクティビズムの2日間、そして原一男監督と呉乙峰監督企画で日台ドキュメンタリー討議の3日間を予定しています。こちらも見逃せません。


☆アジア千波万波 上映作品ラインアップ
(製作国/邦題/監督/上映時間) *邦題は仮題です

◆カナダ / アメリカ
妹へ / 譚浩(タム・ホー) / 5分
ヘアーカット / 譚浩(タム・ホー) / 8分
シーズン・オブ・ザ・ボーイズ / 譚浩(タム・ホー)/ 4分

◆中国
綿打ち職人 / 朱伝明 (ジュー・チュアンミン) / 78分
河と湖 / 呉文光 (ウー・ウェンガン) / 110分
よそに住んで / 汪建偉 (ワン・ジェンウェイ) / 180分
老人 / 楊天乙(ヤン・ティエンイー) / 94分

◆香港
1997年、僕は17歳になる / 范**(ファン・ユッマン)/ 9分
98年的生活言語 / 范**(ファン・ユッマン)、郭亮(フィリップ・クォック )/ 8分
革命前のメモ / 葉旭耀(イップ・ユッイウ) / 16分

◆インド
秋のお話 / ピンキー・B・チョウドリー / 45分
マーヤーのために / ヴァスダー・ジョーシー / 38分
友よ、いかに生き延びよう/ アヌラーグ・シン、ジャラナ・ジャヴェーリー / 80分
鉄の魔術 /シャーリニー・ゴーシュ / 6分
クマール・トーキー / パンカジ・リシ・クマール / 76分
外部の季節 / アマル・カンワル / 30分

◆インドネシア
 ジャカルタ・ストックショットNo.7 / ロン・プユンダトゥ / 19分

◆イラン
カマスの人形 / バーラム・アジムプール / 28分
絹 / M・シェイークル・エスラミー / 35分
テヘラン、25時 / セイフラー・サマディアン / 20分
わな / ファールシャド・ファダイアン / 17分

◆日本
放課後−共同学童保育所つばさクラブの一日 / 小林茂 / 20分
自転車−共同学童保育所つばさクラブ北海道一周サイクリング / 小林茂 / 30分
あんにょんキムチ / 松江哲明 / 52分
新しい神様 / 土屋豊 / 98分
姫ころがし / 寺嶋真里 / 35分

◆韓国
北朝鮮の少年たち、中国へ逃れる/ ビョン・ジェソン / 35分
空っぽの家 / キム・ジナ / 24分
天日干し赤唐辛子を作る / チャン・ヒソン / 59分
3本足のカラス / オ・ジョンフン / 72分

◆キルギス
ジャイユク / テミールベク・ビルナザロフ / 20分
◆レバノン
二人の間で...ベイルート / ディーマ・アル・ジュンディー / 52分

◆マレーシア
人魚島の子ども / ファイザル・モハメド・ズルキフリ、モハメド・ナキブ・ラザク / 10分

◆ネパール
祈祷師 / ツェリン・リータル / 38分

◆パレスチナ
テンション / ラシード・マシュハラーウィ / 26分
モーゼに支えられた行い / アッザ・エル・ハサン / 30分

◆フィリピン
メイド・イン・フィリピン/ ディツィ・カロリノ、サダナ・ブクサニ / 84分
部族へ帰れ / ハウィ・セヴェリノ / 45分

◆台湾
美麗少年 / 陳俊志(ミッキー・チェン) / 63分
労使間の滑稽な競争 / 羅興階(ルオ・シンジエ) / 136分
I Love (080) / 楊力州(ヤン・リージョウ) / 58分
紅葉野球チーム / 蕭菊貞(シャオ・ジュイジェン) / 70分
ハイウェイで泳ぐ / 呉耀東(ウー・ヤオドン) / 49分
狩りに出る2人 / 陳碩儀(クリストファー・チェン) / 49分

◆タイ
エキゾチック概論 / マイケル・シャオワナサイ / 7分
第三世界 / アピチャッポン・ウィーラセタクン / 17分

◆トルコ
太陽を見ることのない心 / ハサン・カラジャダア / 23分

◆アラブ首長国連邦
二つの岸の間で / ヌジューム・アル・ガネム / 20分

☆シーズン・オブ・ザ・ボーイズ

 台湾の新しい台南国立芸術学院出身の若手男性監督から、パーソナルでありながら社会的メッセージのこもったビデオ作品が3本。監督ひとりで小型カメラを回し、身近な友人に接近する。
 『I Love (080)』は暴力やいじめが横行する兵役のストレスから、精神疾患に陥る青年の悩みと孤独を、彼の高校教師だった監督が追う。『ハイウェイで泳ぐ』では、HIV感染した同性愛者の友人との、カメラを回しながらの会話に動揺する、監督の心の動きが写 る。『狩りに出る2人』は、楽して儲けようとするプータロー2人のユーモラスな顛末記。撮影者の監督までが主人公の不倫問題に巻き込まれてしまう。
 また、台湾でドキュメンタリーとして異例の劇場公開で成功した『美麗少年』は、10代のゲイの少年たちと家族の関係を率直に、オープンに描いている。
 さらに、香港出身でカナダに移り住んだタム・ホーの、セクシュアリティと人種を題材にした短編作品を3本上映する。

☆家族の絆

 監督自らの家族関係を縦糸に、社会問題を照らす構成の作品群。インドからは2本。『マーヤーのために』は監督も含む4世代にわたる母娘の証言を通 して、ヒマラヤ地方の女性の社会的地位と生き方の変遷が、美しい映像とともに浮かびあがる。
 『クマール・トーキー』は、かつて監督の父親が経営していた田舎町の映画館の現在のさびれた姿を通 して、庶民にとっての娯楽の移り変わりを家族の歴史と重ねて描く。
 映画学校の卒業制作作品をつくらなくてはならない『あんにょんキムチ』の監督の素朴な出発点は在日韓国人の自分の出自を意識することだった。そして死んだ祖父の故郷、韓国へと旅立つ。
 『天日干し赤唐辛子を作る』はぐうたらな孫娘と外出ばかりする嫁を見守る韓国のおばあちゃんの話。監督自身の家族が主演し、普段の自分たちを演じながら、合間に本心をインタビューされる、というシネマ・イン・シネマ構成の作品。
 戦禍の跡も痛々しい故郷のレバノンへ、10年ぶりに帰るのは『二人の間で...ベイルート』の監督。妹をはじめ家族の皆に話を聞き、関係をとり戻すところから、彼女のベイルートとの和解が始まる。
 『祈祷師』はネパール辺境の、チベット難民の集落で、伝統と現代に挟まれた祈祷師親子の葛藤を、息子の幼なじみが描く。

☆イランと中東

 話題のイラン映画にも様々なスタイルがある。今年は異なる4タイプの作品を並映する。『カマスの人形』は大人社会の似姿として人形遊びをする、ある地方の少女たちの暮らしを描く。『絹』では、若い妊婦がお腹の命の成長と、ひと部屋いっぱいに育てている蚕のつむぐ絹糸の生産に心の平穏を得ていく。『わな』は漁網の運動性や工業機械の連続性のイメージを映像的に捉えた無言語の産業映画。『テヘラン、25時』は、ワールドカップサッカーの試合に狂喜乱舞するテヘランの街の人たちの表情が小型ビデオカメラで捉えられている。
 パレスチナの作品『テンション』はイスラエル占領地の住民の、日常生活の緊迫が、言葉を介さない映像と音楽だけで描き出されている。そして『モーゼに支えられた行い』ではイスラエル入植地の拡大を疑問視するパレスチナ人ジャーナリストが取材を通 して正義を問おうとする。
 アラブ首長国連邦からは『二つの岸の間で』。ドバイの入り江で人々を舟に乗せる「渡し」の仕事を長らくやってきた老船頭が、近代化の波と対抗していく。

☆いかに生き延びよう?

 政治や経済の悪化によって人々の暮らしが成り立たなくなるとき、権力や体制に抵抗する運動が生まれる。渦中の人が撮る映像は相変わらず貴重で独創的だ。
 『友よ、いかに生き延びよう』はインドのナルマダ川に次々にかけられるダムによって、何度も住み処と生業を奪われた村人の最後の抵抗運動を感動的に描く。
『ジャカルタ・ストックショットNo. 7』はインドネシアの人権運動グループによる映像記録。昨年、民主化運動家たちのデモに発砲した政府軍の映像と対する抵抗運動の様子が衝撃的だ。
 『労使間の滑稽な競争』は台湾のある工場閉鎖を期に、一方的な解雇に抵抗運動することになった労働者たちの困惑と分裂が丁寧に取材されている。
 トルコからは『太陽を見ることのない心』。都会で犯罪を犯す子どもたちの多くがトルコ東部で孤児となった例である事実を、幻想的なフィクションを交えて訴える。

☆よそに住んで

 人口移動、移民の問題は今世紀のアジアで際だつ現象だった。
 まず中国からは、ユ93年の小川紳介賞を受賞した呉文光の新作。『河と湖』は、農民から興行師へと転身し、若者の歌やビキニ姿の女性の踊りを移動ショーで見せる一座を追っている。
 『生産』の上映で前回の映画祭に参加した汪建偉もまた新作を発表。『よそに住んで』は、高度経済開発を象徴する高速道路の裏手の、放置された建造物に仮住まいする家族の話。農村から出稼ぎに来たものの、職は見つからず、都会とも田舎とも称せない半端なところを住み処にして原始的な生活を送っている。
 北京電影学院の学生作品の『綿打ち職人』もまた、地方から上京して北京の路上で布団の綿打ちをやっている若者の日常と、未来に対する絶望を捉える。
 「よそに住む」人たちは、日本にも来ている。前回映画祭で来日したフィリピンの『一度きりの子ども時代』の監督2人組が、そのときに取材した映像を編集して、働くフィリピーナたちについての新しい作品『メイド・イン・フィリピン』を作った。
 さらに、北朝鮮から中国へと脱出する少年たちの実態を捉えたビデオ『北朝鮮の少年たち、中国へ逃れる』は、韓国の新聞記者による貴重なビデオジャーナリズム作品となっている。

☆俺たちの時代

 30歳前後の作家たちが、各地で自分たちの時代をつかもうとしている。社会運動や正義がわかりやすかった時代とは違う、今の自分たちの価値観を模索している。
 日本の『新しい神様』では、民族派(右翼)パンクバンドの若者たちと反天皇制の考えの監督が反発・交流していく過程から、拠り所を希求する現代日本人の生き方が描かれる。
 『3本足のカラス』は政治犯として10年間以上を獄中で過ごす韓国の詩人をめぐる。民主化運動が吹き荒れた80-90年代が去り、急速に変化してきた韓国社会の現代の課題を監督独自の視点から捉える。
 台湾の『紅葉野球チーム』は、1968年に日本チームを下した伝説のリトルリーグ野球団「紅葉」のその後を追うことで、台湾の近代化と政府政策の不条理を暴く。
 インド作品の『外部の季節』は、隣国との軍事紛争や国内の宗教戦争など、インドという国をむしばむ暴力の問題について、一人称ナレーションで内省的に語っていく、個性的な考察である。

☆短編の快楽

 1997年に香港が中国に返還された。仰々しい式典の一方で、香港の町には若者たちの日常があった。『1997年、僕は17歳になる』と『98年的生活言語』は、高校生が仲間と遊び暮らす生活を撮った新鮮なビデオ作品。『革命前のメモ』では、返還と同時期に父親の死を迎えた作家の内面 が、映像とナレーションで伝えられる。
 インドからは、熱した鉄が生き物のようにうねる、工場の作業現場を撮したビデオ短編『鉄の魔術』。韓国の『空っぽの家』では、生活の場であり、内面 の写し鏡でもあるアパートの中で、女性監督が自分の肉体と生理を見つめる。タイの『エキゾチック概論』――現代美術家の作家が、スタジオに作った「ストリップ舞台」で、タイの風俗産業のイメージを、ユーモアたっぷりに観客に突き返す。対照的な、同じタイの『第三世界』は、水辺の静かな村の生活の断片を編集することで、「発展途上国」の固定観念をくつがえす。
 日本の『姫ころがし』は、19世紀ヨーロッパの「グロテスク」蒐集と、現代日本に暮らすミッキーマウス好きの太った小夜美ちゃんを交差させ、差別 と被差別の常識を塗り替える。
マレーシアの『人魚島の子ども』は、設計図を使わない伝統的な工法で舟作りを続ける島の舟大工を写 す。


☆故郷、記憶、風景

 キルギスからは、『魔のつり橋』が前回映画祭で「アジア千波万波」の特別賞を受けたビルナザロフ監督の新作。『ジャイユク』は、美しい村で伝統的な砂金採りの仕事をする男たちを描いている。
 『放課後』『自転車』は、いろいろな年齢や障害レベルの子どもたちを預かる日本の学童保育所の日常と、夏休みの自転車旅行を通 して、共同体のあり方を問いかける。
 北京の街角に毎日集まって日向ぼっこするお年寄りたちの姿を、四季にわたって忍耐強く撮影したのは『老人』の楊天乙監督。老いた者のゆっくりした時間の流れと、その中からひとりずつ消えていく孤独感が秀逸な作品である。
 インド、アッサム州で昔ながらに上演される民俗劇を中心に、暴力と権力の横暴の歴史が映し出されるのが『秋のお話』。先住民の生き方の行方を追う。
 『部族へ帰れ』は、フィリピンの先住民族出身の映像作家が、故郷のパラワン島にもどり植民地化の歴史と現在の経済開発の現状と向かい合っていく旅を描く。