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事務局より

2016-03-12 | アラブの上映ネットワーク 〜NAASディスカッション@ベルリン国際映画祭〜

 およそ10年ぶりにベルリン国際映画祭を訪れた。甚大な数の上映とマーケットが拡がるなかで、フォーラム・エクスパンデッド部門で行われていたアラブ・アート系映画館上映ネットワーク(NAAS:Network of Arab Arthouse Screens)のディスカッションが非常に興味深かった。フォーラム・エクスパンデッド部門は、「Traversing The Phantasm(幻想を横切る)」というテーマで上映、展示、ディスカッションが期間中に展開。映画とアートの境界を行き交うさまざまな表現を取り上げていたがYIDFF 2015「きらめく星座群」でインスタレーションを旧西村写真館で発表したインドネシアのlab laba labaが活動を報告するパネルもあった)、他部門同様、プログラム構 成の中でアラブからの作品は色濃い存在感を見せていた。

 そのなかでも、制作者と上映者、そして鑑賞者を繋ぎ育成し地元での映画空間の基盤を築きあげる/直すためのアラブ語圏のインディペンデント映画館ネットワークの試みは切実で、かつ東南アジアやラテンアメリカの映画状況とも重なる諸事情が示唆されていた。

 2009年に立ち上がったNAASは、もしかすると自国よりもベルリン、ロンドン、ニューヨークといった諸外国の都市で上映される機会の多い映画状況を抱えるアラブ語圏の諸地域におけるオルタナティブな上映空間が抱える共通する課題を、現在、8ヶ国12団体で共に議論しながら各地における映画文化を発展させていくことを目指している。

 ベルリン映画祭期間中に、モロッコのタンジェ、エジプトのカイロとアレクサンドリア、チュニジアのチュニスとカルタゴ、レバノンのベイルート、パレスティナのラマラ、エルサレム、ヨルダンのアンマン、スーダンのハルツーム、ドバイにある各団体の代表者たちが関係者のみで議論を重ね、公開ディスカッションでは、カイロのシネマテークーオルタナティブ・フィルムセンターのハナー・アルバヤーティ氏、同じくアート系映画館Zawyaのユーセフ・シャーズィリー氏、ベイルートのメトロポリス・シネマのハーニア・ムルーエ氏、NAASのムハンマド・シャウキー・ハサン氏が登壇していた。

 2時間のパネルの中で、特に重要だったのがNAASの目標や未来への志向として、「これまで国際的な観客が見るための、「アラブ」という多様な表現ばかりに制作する方も上映する方も力点を置いてきたが、NAASは、エジプト、レバノン、チュニジア、モロッコ、パレスティナ、アラブ首長国連邦、ヨルダンそれぞれの観客が、自分たち自身の豊かな表現や挑戦、そして独自の葛藤や関心を持って、作品を鑑賞していくことに関与していきたい(意訳)」というアルバヤーティ氏のことばだ。NAASの未来に関しては、まだまだたくさんの課題や五里霧中なところもあると触れていたが、パネリストたちの言葉から、これまで積み上げてきた上映体験の確かな手応えと、新たな試みへのみなぎる意欲が飛び交う空間に、大いに喚起される熱いベルリンのひと時となった。

(濱治佳 東京事務局