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事務局より

2014-03-11 | インドのムンバイにて

 2月、ムンバイ国際映画祭の劇場ロビーでチャイを立ち飲みしていたら、「インディーズ制作者同士がつながれるプラットフォームを作ろう!」という声が聞こえてきた。映画祭に参加するため全国から集まったドキュメンタリーの作り手たちが、連日顔を合わせて互いに苦労話を交わしているうちに、「一緒に活動したり情報交換できるネットワークがあれば」「上映の相互支援ができたら」「自分たちに有益な映画祭を」と議論が白熱していた。「正午に広場で!」と口づてに、フェースブックで、ツイッターで集会の呼びかけは広められ、連日あちこちで自然発生的にディスカッションが続いた。

 かつて政府機関や一部の特権的な人たちだけが、教育・広報を目的とした短編や伝統芸能を記録した文化映画を作っていた時代は、今は昔。当時、映画館で本編前に必ずかかるものの、お客さんには不評でロビーで煙草を吸って本編を待つ時間となっていた官製ドキュメンタリーに代わって、今ではフットワークが軽く創作の自由を志す個人の映像作家が重要な仕事をしていることは、YIDFFの近年のラインアップでも証明済み。

 極右政権が煽る宗教対立、経済成長と共に広がる社会矛盾、貧富の格差、女性差別に抵抗する運動。現実に生きる人々を記録し社会批評する伸びやかな映画が、インド各地で作られ上映されている。インド国内の劇場公開を目指すドキュメンタリストも増え、3月現在『グラビ・ギャング』は全国複数都市で公開3週目に入っている。英語が得意なインド人監督は欧米から資金を得て、世界の映画祭やテレビ放送で活躍している。

 今年のムンバイ映画祭は、そんなインディーズの活力と国際性を取りこむフォーラムやシンポジウムを開催し、様々な改革を重ね好評だった。2004年にインディーズが政治的検閲に抗議して、政府主催のこの映画祭をこぞってボイコットした。あれから10年、今年の生涯貢献賞を受賞したのは、戒厳令の時代から幾度も政府と対立してきたアナンド・パトワルダン監督。

 映画祭が主宰者の権威をふりかざすためのものだった時代に代わり、制作者たちの祝祭と交流の場に移り替わろうとしていた。次は「観客の映画祭」という視点が期待される。

 ヤマガタからは2013スカパー!IDEHA賞の受賞作2本が招かれ、インド人の喝采を浴びた。村上賢司監督の『オトヲカル』では現実を記録再生するフィルムの奇跡に感激の声が聞かれ、酒井耕・濱口竜介監督の『うたうひと』の民話に観客はすっかり聞き入り声をあげて驚いたり笑ったり。インド各地にも根強い口頭伝承との共通性が話題になっていた。

(藤岡朝子 東京事務局ディレクター

Gulabi Gang 監督:ニシタ・ジャイン。ピンク色のサリーを着て集まり、女性の人権侵害に立ち向かう貧しい女性の“ギャング”の活動とそのカリスマ的リーダーを追うドキュメンタリー。