2001-10-24 | | | 山形国際ドキュメンタリー映画祭2001受賞作品&審査員コメント |
インターナショナル・コンペティション
審査員:ハルトムート・ビトムスキー、ベルナール・エイゼンシッツ、
許鞍華(アン・ホイ)、黒木和雄、イヴァルス・セレツキス
- 審査員長講評
- インターナショナル・コンペティション審査員の代表として私からいくつか気づいた点を申し上げます。
まず始めに、インターナショナル・コンペティションで上映されたフィルムやビデオ作品のすべての製作者の方々に感謝申し上げます。
我々は特にビデオ作品をスクリーンで鑑賞できたことを心から喜んでおります。
近年、重要なドキュメンタリー作品が数多く製作されているビデオ――アナログであろうがデジタルであろうが――を各プログラムに組み入れてくださった映画祭実行委員会の皆さまに厚くお礼を申し上げます。
気がかりな事件が繰り広げられているなか、世界中からフィルムやビデオが山形に集められ、多くの方々と共に鑑賞できたことを大変光栄に思います。
一方で、我々はいつも危惧の念を抱きながら作品を鑑賞し討議しました。
アメリカ同時多発テロの犠牲者に深くお悔やみ申し上げます。
この事件が引き金となり様々な国や地域で人種差別問題が多発しています。そして我々は罪のない多くの人々の生活を破壊しようとしている戦争を目撃しています。
我々は人種差別や戦争がこの事件を解決する最善の方法ではないと考えています。そしてこの問題を広く取り上げ、何らかの解決策を見つけ出さなければならないのでしょうか。
●大賞(ロバート&フランシス・フラハティ賞)
『さすらう者たちの地』The Land of the Wandering Souls(フランス)
監督:リティー・パニュ- この作品はまるで19世紀のような生活状況に、グローバリゼーションの時代の新技術を対比させ提示する。映画の製作過程は、まさに被写体のケーブル敷設作業労働者が耐える試練と重なるようである。監督は、日常生活をスクリーンに映し出す、というめずらしい偉業を達成し、さらに労働の肉体性を伝えるというさらに希少な離れ技をなしとげる。こうしてカンボジア史の悲劇を具体的に感じさせることに成功している。
●最優秀賞(山形市長賞)
『ヴァンダの部屋』In Vanda's Room(ポルトガル、ドイツ、スイス)
監督:ペドロ・コスタ- この作品はある街とある集団の崩壊過程を描く。文明がつぶれそうな現代において、文明の境界地を訪れていると言える。社会に見捨てられた被写体たちを、1年間かけて情にあふれる視線でみつめ続けながら、程よい距離を保つことに成功している。映像と音をもっともシンプルにそぎ落とし、ワンカットワンカットを使って時間の経過を記録する物語の細い糸を展開させる。この作品には倫理的であろうとドラマティックであろうと、どのような結論もふさわしくはないが、作品は見る人にそれを強要しない。
●優秀賞
『真昼の不思議な物体』Mysterious Object at Noon(タイ)
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン- この作品はタイ国土にわたって紡がれる、ささいな話から伝説まで、無数の物語の糸を追う。壮大な叙事詩として出発した作品は、製作過程と物語りの展開を経て、次第にドキュメンタリーの様相を帯びてくる。フィクションの再生は、オリジナルなものでも、メディアの借り物でも、物語の登場人物たちの実人生を捉えて離さない。
●優秀賞
『シックス・イージー・ピーセス』6 Easy Pieces
(アメリカ、イタリア、ポルトガル)
監督:ジョン・ジョスト- この作品は映画の限界点に到達している。メッセージを残そうと試みることなく、開かれた作品であるが、まるで音楽を扱う作曲家のように、空間、色、時間といった素材を強調する。作者はこの「エレクトロニック・シネマ」が真正の方法での見る行為への回帰だと主張する。審査員は、この作品がドキュメンタリーであり、ドラマではなく意味過重でもなく現実を素材にしている、と主張する作者の言い分を受け入れることにする。この作品は作者が感じる「見る喜び」を共有させ、今までに感じられたことのないような生の瞬間をつかまえている。
●特別賞
『A2』A2(日本)
監督:森達也- この監督は、犯罪行為を犯したオウムという宗教セクトの内部に入り込む勇気をもっていた。メディアを通して伝えられる悪魔的なイメージの外に、この団体には何かあるのではないかと想像した。このセクトと日本社会がまるで双児のように、互いの鏡像のように向かい合う姿を描く。この作品はポスト・モダンの現代の世界における混乱した空気をうまく表している。ストレスをかけられた社会では、失われた総意を取りかえすため、絶対主義体制の芽が容易に生まれるという恐ろしい姿を差し示している。
アジア千波万波
審査員:佐藤真、チャリダー・ウアバムルンジット
- ●小川紳介賞
『夢の中で』Soshin: In Your Dreams
『愛についての実話』A True Story about Love(2作ともオーストラリア)
監督:メリッサ・リー - 家族というプライベートなテーマを独自のアプローチによって限りなく楽しく、しかし、その中にも移民として暮らす悲哀をそこはかと醸しだす『夢の中で』。アジア人男性というステレオタイプを監督自らの恋愛劇というフィクションを通じて刺激的に切りとった『愛についての実話』。この対照的な二本の作品を作り上げた大いなる未来を感じさせる監督の作家性に対して高く評価と賞讃を送る。
●奨励賞
『別れ』Farewell(韓国)
監督:ファン・ユン- 動物園というありふれた世界を檻の中に暮らす動物達の視点から、野生保護にも動物愛護にも片寄らない独自なアプローチで切りとった。この新しい視点を作品に昇華させた監督の作家性を高く評価する。
『不幸せなのは一方だけじゃない』More than One Is Unhappy(中国)
監督:王芬(ワン・フェン)- 結婚とは夫婦で池の底に沈みながら闘い続けることである。こうした夫婦のひとつの典型を、自らの父母の人生を冷静に見つめることで、荒削りながら描き切った監督の力強い作家性に大いなる未来を感じる。
●特別賞
『線路沿い』Along the Railway(中国)
監督:杜海濱(ドゥ・ハイビン)
『空色の故郷』Sky-blue Hometown(韓国)
監督:キム・ソヨン
市民賞
ボランティアグループ「市民賞の会」が運営。「インターナショナル・コンペティション」15本、「アジア千波万波」34作品を対象にし、観客の投票により賞が決定されました。
- 『A2』A2(日本)
監督:森達也
FIPRESCI賞
FIPRESCI賞は、「インターナショナル・コンペティション」、「アジア千波万波」の全作品を審査対象としました。
審査員:レオ・バンケルスン、井坂能行、アルタフ・マジード
- ●インターナショナル・コンペティション
『ヴァンダの部屋』In Vanda's Room(ポルトガル、ドイツ、スイス)
監督:ペドロ・コスタ - 原形に近い形で人生を描いた作品。この稀なドキュメンタリーは、その高い芸術性をもって貧困にあえぐひとりの人生に人間的尊厳を回復させた。
●アジア千波万波
『友人、スー』My Friend Su(インド)
監督:ニーラジ・バシン- すぐれた詩的映像と深い人間理解を微細に組み合わせた作品。流暢な手法を用い、しばしばユーモラスに、女性の内面をもつひとりの若い 男性の複雑な感情を明らかにした。
NETPAC賞
NETPAC賞は、「アジア千波万波」全作品及び、「インターナショナル・コンペティション」中のアジア人監督作品5本を審査対象としました。
審査員:石坂健治、ナム・イニョン
- ●NETPAC賞
『移民者の心』My Migrant Soul(バングラデシュ)
監督:ヤスミン・コビル - 地球上の多くの地域で生じている移民労働者の問題に独自の視点で立ち向かい、困難を全く感じさせずに、知的にして、被写体に対する愛情に満ちた作品を作り上げたことに大いなる敬意を表し、NETPAC賞を授与致します。
●特別賞
『パンジーと蔦』Pansy and Ivy(韓国)
監督:ケ・ウンギョン- 障害者の結婚と社会的なプレッシャーというテーマに焦点を当てながら、極めて魅力的な関係を被写体との間に築き、ユーモラスな作品を完成させたことを高く評価致します。
『真昼の不思議な物体』Mysterious Object at Noon(タイ)
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン- 「物語る」という、古来から存在する人間の行為を扱いながら、フィクションとドキュメンタリーという旧来の二分法を軽々と超え、「21世紀の映像」の到来を感じさせる新しい“ハイパー・アート”を作り上げたことを高く評価致します。