竹内雅俊 監督インタビュー
多面的な人間を撮る難しさと醍醐味
Q: 金成(かなり)さんは、息子さんの部屋に思い出の詰まったものを、捨てずにたくさん運び込んで暮らしていますね。でも、その一方で、いわき市のご自宅をぽんと手放した。それはなぜなんだろうと思いました。家族と一緒にいることを選んだということなのでしょうか?
TM: 確かに、そう見えるように作ってはいます。でも、本当の理由は、金成さんにしかわからないですね。人間というのは「多面的」です。僕自身、金成さんを追いかけていて、わからない部分は非常に多かったです。多面的な人間を、多面的な人間が撮って、それを見るのも多面的な人間ですから、見た人の捉えかたに委ねたいと思っています。
Q: 金成さんとの出会いは?
TM: 金成さんは大学の先輩です。共通の恩師のお別れ会で知り合い、仲よくなりました。その4、5年後に東日本大震災が起き、福島に住んでいる金成さんのことを心配していたら、3月の終わりごろ、東京に避難してきていた金成さんから電話があったんです。久々に再会してふたりで飲んだんです。その時、金成さんから「自伝を書いてほしい」と頼まれました。僕は映像の人間なので、「どうせなら、ドキュメンタリー映画にしませんか?」と言うと、最初は躊躇しておられましたが、OKしてくれました。それが、この作品の出発点です。
Q: 金成さんを撮ろうと思ったのはなぜでしょうか?
TM: 一番の理由は、金成さんが塾を経営していて、たくさんの子どもたちと接してきた方だったからです。実は、僕は教育映画の出身で、作品づくりの柱に「子ども」というのがあるんです。3.11の震災の後、一番心配したのは子どもたちのことでした。特に、放射能が飛来しているかもしれない屋外で元気に遊ぶ子どもたちを見ると、いたたまれない気持ちでした。震災直後に金成さんにお会いした時、金成さんはあまり報道されない原発のことや子どもたちのことを熱く語ってくれて、とても共感したんです。それで、金成さんのドキュメンタリーを作ろうと思いました。が、いざ、カメラが廻り始めると、金成さんはそういうことを一切語ってくれなくなったり、当初はOKだったご家族の撮影もダメになってしまったりと紆余曲折がありました。でも、見えないこと、語らないことで、逆に浮き彫りになるものもありますからね。
Q: もし、この作品を一言で言うとしたら、監督はどんな作品だと思われますか?
TM: この作品を観てくださった方から言われた言葉なのですが、「人間について多くを語る映画」ということでしょうか。おじさんが東京と福島を往復するだけの映画の中に、いろいろな人の心の動きや思いが詰まっているんです。当初の企画とはだいぶ違った作品になったのですが、結局、僕が撮りたかったのは「人間って何かな?」ということだったと、その方の言葉を聞いて気づきました。結果として、そういう作品になったと思います。
Q: 作中のテロップが独特だと思いました。
TM: 先ほど「人間は多面的だ」と言いましたが、それと同時に、僕は人間は嘘をつく生き物だと思っています。「嘘」はこの作品のテーマのひとつです。金成さんが発している言葉だけがすべてではなく、いろいろな捉えかたができるように、あえてテロップで曖昧な書きかたをしている部分もあります。映像とテロップが矛盾しているようなところもあります。だから、映像に集中して観たときと文字を読みながら観たときでは、違って見えるかもしれません。
(採録・構成:三瓶容子)
インタビュアー:三瓶容子、川村康二
写真撮影:佐藤寛朗/ビデオ撮影:加藤孝信/2013-10-06 東京にて