ドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ 監督インタビュー
彼らのことが大好きだから
Q: デノクとガレンの一家は、笑顔が素敵な家族で、本当に豊かな生き方とは、物質的な豊かさによるものではないと感じました。この映画は、宗教・貧困・家族のあり方と、いろんな視点から考えることができますが、監督はどういう視点で撮影されたのですか?
DSN: 彼らのことが大好きだから、この映画を作りました。彼らの生命観や魂をとらえようとしたのです。私が彼らに学ぶことはとても多かったし、彼らは漫画の主人公のように不死身で、何があっても立ち上がります。その不屈の精神が主題になっています。私は彼らを訪ねていって、とても豊かな時間を体験することができました。それを、観客と共有したいと思ったのです。
Q: デノクとガレンの一家が、自分の人生を笑い飛ばす勇気を持っているということですが、なぜ彼らは、そうできるのでしょうか?
DSN: デノクは10年以上、ガレンも5年以上路上で生活していたわけですから、そういう厳しい人生というものを、笑いでもしなければ生き延びられなかったのだと思うし、もともと彼らにそういう資質があったんだと思います。困難な時にそれを笑うか、泣いてみじめなところにあまんじてしまうか、二通りあると思うんですけど、彼らは笑い飛ばしてさきに進んでいく。もちろん弟の事故が起きたときには泣いていますが、翌日には笑っていて、しっかり問題を解決しようとしていました。生活自体は本当に苦しいのですが、笑うことによって、それがすこしでも和らぐのではないでしょうか。
Q: インドネシア国内での反応はどうでしたか?
DSN: インドネシアにはドキュメンタリーを上映する映画館はないので、コミュニティを回って、自主上映会をひらいています。身近なことを描いた映画なので、観客はとても楽しんでくれます。また、私の映画が観察型のスタイルなので、それも彼らにとっては珍しく、新鮮なようです。
Q: 監督は、NGOの活動などをされていたそうですが、その経験は、映画制作にどのように繋がっていったのですか?
DSN: フィールドワークやリサーチの仕事をしていたのですが、そのうち路上生活をしている子どもたちのための、無料の診療所をたちあげました。身分証明書がないために、病院に行けない子どもたちに、医療をとどけるという仕事をしているうちに、デノクとガレンに出会いました。また、そういうNGOの仕事でレポートを書くのですが、文字でレポートを書くだけではたりないのではないか、映画にすればもっといろんな人に観てもらえるし、説得力もあるのではないかと考えるようになりました。映画だけで何かができるわけではないけれど、観た人のなかからいろんなことをやってくれる人が出るかもしれない、そういう力になるかもしれないと思ったのです。
Q: 最後に、新作について聞かせてください。
DSN: ムラピ火山の山頂から3.5キロのところにある、世界で最も危険な村を撮影しています。政府の避難勧告も拒絶して頑なにそこに住みたいと思っている人たちがいるのです。その人たちを追って次の噴火まで撮り続けようと思っています。
もうひとつの企画では、私をふくめた3人のアジア人の女性、30歳を過ぎて未婚で結婚しなさいとプレッシャーを受けている人たちが、ちょっとおせっかいなアジアという地域のなかで、どのように感じているかを描きたいと思っています。
(採録・構成:桝谷頌子)
インタビュアー:黄木可也子、飯田有佳子/通訳:川口隆夫
写真撮影:山崎栞/ビデオ撮影:山崎栞/2013-10-14