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YIDFF 2013 アジア千波万波
ぼくとおばさん
王爾卓(ワン・アルジュオ) 監督インタビュー

日常にある愛情の記録


Q: 身近なおばさんやその周りの人を撮ったのはなぜですか?

WE: 若い世代の人々は、周りの人に無関心になり、自分だけが楽しければいいと考える傾向があるように思います。そこで、ドキュメンタリーを通して、自分の愛すべき人たちを撮ることを通して、身の周りの人々に目を向けて自分の新しい世界を発見したいと思いました。撮影を通して、僕はおばさんに世界の見方を変えてもらいました。おばさんの店で働く若い女の子を撮ったのは、僕が知らない彼女たちの生き方は、僕にとってとても新鮮だったからです。彼女たちの生き方が、おばさんの青春と重なる部分も、もしかしたらあるかもしれません。

Q: 監督は“普通に生きる”ということに希望を見出したのでしょうか?

WE: そういうふうに、この作品を見てくれたのはとても嬉しいです。今の中国人は忙しく、生きることに必死です。お金儲け、仕事、子どものことに忙殺されています。そのなかで、中国人が持っていた伝統的な温かさが、だんだんと薄れてきているように思います。どこの世界でも、急速にいろいろなものが発展する時には、忙しさに紛れて大事なものを忘れてしまうようなことがありますよね。おばさんは、いくら苦しくても、それを乗り越えて、とてもチャーミングな生き方をしています。幸せを求めて、周りの人々とお互いにいたわり合って、愛し合っている。幸せになることを決して諦めない気持ちを、強くもって生きています。そこに感動しました。

Q: 中国語のタイトル『彩云之南』(英題 South of the Clouds)にはどのような意味が込められていますか?

WE: 舞台の雲南省という意味ももちろんありますが、“はるか遠くの美しい場所”という、もうひとつの意味があります。僕自身が、おばさんと周りの人と一緒に、夏を過ごした思い出は、とても美しい記憶です。遥か遠くの美しい場所は、ふと見れば自分のごく身近なところにありました。身近な人に思いを寄せるかぎり、はるか遠くに行かなくてもそれは彩雲の南になりうるのです。

Q: 次回作について教えてください。

WE: もう、次のドキュメンタリーを撮っています。次は、母方の叔父の家族を撮ります。僕が愛するもうひとつの家族の話です。その家族は三世代の大家族です。中国が直面した問題が、世代の違う人にそれぞれの形で影響しています。自分は“90後”と呼ばれる世代で、一人っ子政策の世代です。そもそも兄弟がおらず、これからおじさんやおばさんという存在がなくなり、大家族が消えていきます。孤独にまみれる世代なのです。そういった時代の中で、自分で人生を切り拓き、生き延びていかなければいけません。忘れられようとしている温かい愛情を記録して残していきたいです。

(採録・構成:久保田菜穂)

インタビュアー:久保田菜穂、野崎敦子/通訳:樋口裕子
写真撮影:山口将邦/ビデオ撮影:山口将邦/2013-10-12