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YIDFF 2011 シマ/島、いま――キューバから・が・に・を 見る
クーバ・センチメンタル
田沼幸子 監督インタビュー

キューバの顔


Q: キューバを研究対象に選んだのはなぜで、どのようなところに注目していますか?

TS: 文化人類学は非西洋、非近代の研究からはじまったので、スペインの文化が入ったキューバは正統派ではありませんでした。よって研究する人が少ないということ、さらに語学面の問題など、その他さまざまなことが重なりキューバを研究対象に決めました。キューバは文化人類学では50年代より少し前に注目されはじめましたが、書かれたものの多くは、革命政府に都合のよい、または革命は良いことなのか悪いことなのかと査定するような内容でした。その後90年代には、ベルリンの壁が崩壊しても、社会主義を維持していったことにより、ものもお金もなくなり、観光客や研究者をとおして資本主義を受け入れるようになっていました。そのことにより現地の人々は金銭的格差を感じ、外国人への売春まがいのたかりを実行する人々“ヒネテリスモ”がみられるようになりました。そこで英米圏の研究では、このような革命の精神と対称的な生き方をする若者など、下層のダークな部分に焦点を当て、革命は間違っていたというものが主流となっていきました。しかし、実際に生活してみると、そこまで白黒分かれていないのではと私には思えました。たとえばヒネテリスモは、キューバ人同士で資源がない中、助け合ってやり取りをしているという動きと繋がっているところもあります。革命は日常言語の中に入ってきているので、まったく扱わないわけにはいきませんが、政治の問題に終始するのではなく、その人たちの人間観が重要なのではないかという気がしてきました。だから私はキューバで日常生活を送る、光を当てられていない、どこにでもいる人々を撮っておきたかったのです。

Q: 文章で書くことと、映像で撮ることで感じた違いは何ですか?

TS: 映像は文章と違って共有しやすく、スピードが速くインパクトがあります。民族誌映像の歴史は長いですが、つまらないステレオタイプがあると思われがちです。しかしそのようなものは存在せず、たとえばジャン・ルーシュはフィクションとノンフィクションの境を消すような試みをしていて、その代表作は『人間ピラミッド』です。私が移民にフォーカスを当てていたのを、友情にシフトしたのは、これに影響を受けているところもあるのかもしれません。それに、もともと私が書くものは映像的な文章だと言われていて、文章よりも欲しかった反応がもらえるという発見もありました。

Q: とてもプライベートな内容になっていましたが、親しい人々を撮ることになったのはなぜですか?

TS: 実際に映像にした彼らは、私が卒業論文のための資料としてキューバで集めた、たくさんいるインタビュー要員のうちの一部の人たちでした。ただ、他の人たちと違ったのは、テープおこしなどを彼らに頼んでいたことでした。作業をしていくうちに、彼らもいろいろな話を聞くことになり、それに対する自分の意見を言ってくれるようになったのです。それをさらに資料として取り込んでいくことで、おもしろいデータを取ることができました。しかし、最初は彼らのことを使うつもりはありませんでした。彼らが外国に渡った後どうしているのか気になっていたので、データを読み返すのも辛かったからです。その後指導教官と話し合い、結果的に研究対象になりました。そして映像にするとなったとき、近い人を撮った方がおもしろいということは4年前この映画祭に来たときにわかっていたことなのでそうしました。

(採録・構成:勝又枝理香)

インタビュアー:勝又枝理香、小清水恵美
写真撮影:千葉美波/ビデオ撮影:市川恵里/2011-10-12