キム・ギョンマン 監督インタビュー
大統領はうそをつく
Q: 大統領選挙を取り上げた意図は何ですか?
KK: 前回の作品(『やってはいけません』YIDFF 2005)は、兵役拒否のイベントの主催者からの依頼だったので、今回は自分のつくりたいものをつくりました。李明博(イ・ミョンバク)の当選を受け入れるしかない状況にあり、怒りを感じたのは、彼の具体性のない公約の数々で、朴正熙(パク・チョンヒ)との共通点を思い知らされました。朴元大統領と聞くと、年輩の人々は郷愁を感じ、彼のおかげで食べられるようになったと思うが、彼自身の力ではなく、労働者の働きによるものなのです。彼の時代の経済発展で恩恵を受けたのは財閥であり、その姿勢は李明博に共通するものです。彼は当選直後に為替レートを引き上げ、輸出産業には有利でしたが、物価が上がり、庶民の暮らしはたいへんになりました。投票場面の映像では、金大中(キム・デジュン)と盧武鉉(ノ・ムヒョン)のふたりの元大統領は、朴正熙や李明博と同質とはいえないので、入れませんでした。
Q: 過去3回の大統領選挙で落選した対立候補の李会昌(イ・フェチャン)に対する評価はいかがでしょうか?
KK: 彼は、本質的には李明博と似ています。クリーンなイメージは、マスコミがつくりだしたものにすぎません。彼は金泳三(キム・ヨンサム)大統領時代の国務総理(首相)でしたが、その当時、洛東江(ナクトンガン)の水質汚染事件が起こり、彼は謝罪したのですが、その流域は彼の支持基盤だったのです。そのことをふまえて、水質を検査している映像を使いました。
Q: 韓国の大統領と日本の首相の違いはありますか?
KK: 制度の問題ではなく、日韓ともに政治家になれる階級があり、まず豊かなことで、議員や官僚は不動産やお金を持ちなど日本と似ているところがあります。韓国でも世襲があり、それも朴大統領時代からで、婚姻関係も日本の政治家と同様です。
Q: ふたりの登場人物はどんな人たちですか?
KK: ふたりは、私と同じドキュメンタリー映画の監督で、彼らが日頃、よく無駄話をしているので、起用しました。映画監督を起用したのは、彼らがしっかりした職業をもっていない者という意味を含んでいます。若い世代は、ほぼ彼らと同じ意見で、李明博を支持しませんでした。できるだけ選挙に無関係な無駄話をするように頼んだら、彼らも映画監督なので、カットされるような話題は避けて、うまく演技をしてくれました。
Q: 過去の映像を多用した意味は、どのようなものですか?
KK: 過去の映像から、当時の現状認識が見えてきます。使った映像にはつくり手の意図が込められており、つくられた映像は客観的ではありえません。今をふりかえる材料にもなりますが、集めるよりも使える映像を選ぶほうがたいへんな作業でした。
(採録・構成:岩鼻通明)
インタビュアー:岩鼻通明、佐藤寛朗/通訳:根本理恵
写真撮影:伊藤歩/ビデオ撮影:木室志穂/2009-10-12