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YIDFF 2007 ニュー・ドックス・ジャパン
花の夢 ある中国残留婦人
東志津 監督インタビュー

ひとりの女性から学んだ生きるということ


Q: デビュー作のテーマに、この中国残留婦人を選んだ理由を教えてください。

AS: 映像の仕事を続ける中で、栗原さんに出会いました。その姿を映画になるかどうかわからないけれど、撮り続けていこうと思っていたらチャンスが得られ、たまたまこの映画が最初になりました。形になった時は、ずっと撮影に協力してくださった栗原さんや、そのご家族にやっと顔向けができると思いました。映画を作るということは人の人生を預かるわけだから、中途半端にはできません。だから人に見てもらえる形にできたのは、すごくうれしかった。

Q: とても静かな作品で、戦争よりはひとりの女性の生き方を描いたように感じたのですが?

AS: 被害の多さや大きさを伝えるというのは、結局その記録でしかなく、個人の怒りとか悲しみを表現するには限界があると思いました。だから栗原さんの言葉の中でも、極力そういう恨みとかつらみは使わないように、事実を淡々と話してもらました。そのニュアンスの中で、見た人に何か受け止めてもらえればいいと思ったのです。

Q: 栗原さんの人生を通して、生きるということについてどのように考えましたか?

AS: 人間はそんなに弱い存在じゃないと、勇気づけられました。これから先も人間は生き残るし、命をつないでゆけると思えたことで、命というものに希望が持てた。今の世の中はものであふれているけれど、人間にとっての幸せは家族がいっしょにいられたり、毎日お腹いっぱい食べられたり、夜安心して眠れたり、そういう当たり前のことだけで十分。人間が生きるというのはそういうことなのではないかと、映画を作りながら思いました。どういうふうに社会と関わったらよいか悩んでいたのが、栗原さんに出会ってすごく楽になりました。何かをしなければならないのではなく、与えられたことを一つひとつ大事にやってゆけばいい、一所懸命生きていれば道は開けるのだと、教えられたように感じました。栗原さんの女性としての強さや生き方にすごく惹かれて、状況は違うけれどこういった心の持ち方で生きて行けたら、と思います。見ている人にも、こういうことを感じてほしいですね。

Q: 戦争を知らない若い世代には、何を感じてほしいですか?

AS: 若い人は、戦争のことに関心がないのではなく、機会さえあれば興味を持ってくれるはず。だから、この映画がそのきっかけになってくれればいいと思います。恵まれたわけではない人の人生に、自分の身を寄せてものを考えることができるようになることが、大人になる過程で大事なのだと思う。映画にできることっていうのは、見てくれる人に名もない人の人生を届けること。皆さんに私が感じたようなことを、感じてもらいたいと思います。

Q: 作品を作るうえで大変だったことは?

AS: テーマがすごく重い内容だったので、ひとつの素材として見つめられるようになるまで時間がかかり、その作業が精神的に辛かったです。若いのによく作れましたねと言われますが、自分では逆に若いから無邪気に作れたのだと思います。この年齢でこういう作品が作れたというのは、とてもラッキーだったし、自分の中で糧にして、次につなげていけたらいいと思います。今は全部出し切った状態なので、何年後かにまた撮れたらいいですね。ただ栗原さんのような、人間が生きるということを感じられる作品を作りたいとは思っています。

(採録・構成:広谷基子)

インタビュアー:広谷基子
写真撮影:横山沙羅/ビデオ撮影:高田あゆみ/2007-09-21 東京にて