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YIDFF 2007 インターナショナル・コンペティション
ミスター・ピリペンコと潜水艦
ヤン・ヒンリック・ドレーフス 監督インタビュー

作品によって物語の語り手となる


Q: 映画の中では、ピリペンコさんがカメラをあまり意識せず自然体で映っていますが、どのような工夫をされましたか?

JHD: 最初彼と知り合った時には、もちろんカメラなしで話をして、一緒に食べて飲んで、家族との時間を過ごしました。家にも泊まりました。そうやって個人的な関係を築いていき、私自身に慣れてもらったのです。そして、少しずつ小さいカメラを用いて彼を撮影して、カメラにも慣れていってもらいました。本格的に映画の撮影用のカメラを持ち込んだ時には、彼も少しおかしいなと思っているような感じでしたが、それでも少しずつ毎日カメラに追い回されているうちに、彼もカメラに慣れきってしまったようでした。もちろん彼はカメラを意識していたし、カメラがあることで、自分が今重要なことをしているという認識を持っていたと思います。ただ、それによって彼は演技をしているとは思えませんでした。どんなドキュメンタリーを作るにも、本当に自然のままということはありません。カメラの技法によってある一定のシチュエーションができてくるとは思います。しかし、それを作らなければ良い作品は生まれてこないと思うのです。

Q: ピリペンコさんの奥さんは、彼が潜水艦を作ることを快く思っていないようでした。映画を撮るにあたり、奥さんの反応はどういったものでしたか?

JHD: 公式的には、奥さんは彼をサポートしていないことになっています。なぜなら、彼は夫であり、家族を養う立場にあるわけですから、電気代や食費などの生活費を入れなければなりません。ところが、彼はその点に関して非協力的で、潜水艦にお金を費やしています。彼女の立場にしてみれば、そういった点で潜水艦を作ることはあまりにも馬鹿げていて、もちろん賛成できないわけですね。しかし、非公式的には、やはり我慢をしてサポートせざるをえないのです。もし、万が一ピリペンコさんが潜水艦を作るのをやめれば、おそらく彼はお酒を飲んでばかりいたでしょう。なぜなら、彼らの村ではほとんどの人が大酒飲みなのです。でも、ピリペンコさんだけは、潜水艦のために一切の酒を断ち切っていました。もし、彼が夢をあきらめるようなことがあれば、どのように彼が転落していくかわからないという気持ちが彼女にはあったと思います。たしかに、私たちクルーに対しては、気難しくやりにくい相手ではありましたが、最終的にはお互いわかり合えるようになりました。

Q: この映画を通して何を伝えたいとお考えになりましたか?

JHD: 実は、私はメッセージというものに重きを置いてはいません。自分の作品を通してメッセージを伝えることに興味がないのです。むしろ、私は物語の語り手として、そこにある物語を単純に伝えたい、それだけの仕事をしていると思っています。その人の生き方や、その人がおもしろいと感じたことを伝えたい。私の興味というものはそこまでなのです。ドキュメンタリーなりの形式化された作り方があるのかもしれないけれども、私は形式にはこだわらず、単に内容のある話をしてあげたい。できれば、今回のように夢が含まれていて、こういったものを観ることによって、観衆はある意味で刺激を受けたりする、それで私はいいと思います。

(採録・構成:三條友里)

インタビュアー:三條友里、久保田桂子/通訳:今井功
写真撮影:佐々木陽子/ビデオ撮影:佐々木陽子/2007-10-07