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YIDFF 2003 学校プログラム
レター
津本真理 監督 藤田直美(『レター』企画) インタビュー

人に対して諦めたくなかった


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Q: 「CINEMA塾」の作風とは?

TM: 原一男「CINEMA塾」の場合は、主人公の側にいかに立ちきるか、思いや欲望をどれだけ解放できるかに、カメラが手助けしていくところだと思います。実は当初、私たちの企画にはOKが出なかった。原監督は、他者との人間関係を作っていくことを大事にされていたから、自分の家族というのが安易だと考えていらしたようで。

FN: 制作中、何度も原監督に“覚悟”“真剣勝負”といった言葉で突き詰められ、それに対し自分がいかに応じていけるのか、常に考えながら撮っています。そういう熱さも特徴的です。

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Q: 藤田さんは、ご自分の家族について作品にすることへの迷いはなかったのでしょうか?

FN: 私たちの制作意図とは違うところで、父が非難中傷されるのではという恐れがあり、はじめは、実家の地名などが映らないようにお願いしました。でも原監督に、「表現というもんは、社会に対し喧嘩売ることでもある、そんな逃げ映す方法では駄目だ」と言われました。「お前ら腰が引けている」とも。そのとき肯きはしたものの、個人的なことを公にした後の想像がつかずに、撮影中も気に掛かっているところはありました。

Q: ラストがどうなるか、明確にされていたのですか?

TM: スタッフ内で、ラストは始めの段階から見えているべきだという意見と、藤田さんの気持ちをつかまえていきながら、自然に見えてくる方がいい、という考えとに分かれていました。

FN: スタッフの初顔合わせの際は、私が父に笑顔で感謝している、というラストを考えていたんです。でも父の様子を見ながら撮り進めていた上に、私たち側でも、まだ撮れないのではという不安があったため、他のシーンも含め、当初の予定と変わった部分もありました。実際のラストは、想像に至る少し手前までだったと思います。

Q: 制作中、お父さんの反応で予想外、もしくは意外に感じたことはありましたか?

FN: 父が、そのラストの撮影に来てくれたことかな。納得のいくまで話をすると、念を押してありましたから。でも来たら、一方的に私の手紙に対する返信を読み出して……。しかも私ではなく、カメラの前で堂々と……(笑)。

TM: はじめは、それを読んで終わりにしたくて来たのかなと。でも実は、藤田さんが手紙を読んで思いを伝える以前に、たまたま新聞で「CINEMA塾」が紹介され、“不登校を経験した藤田さんが父との葛藤を……”という記事をお父さんが読んでしまっていた。でも藤田さんにさえ、直接何も言ってこなかったんです。

FN: 父も、どこかで私の気持ちを受け止めたい部分があったのだと思います。

Q: この作品をどういう方に見てもらいたいですか?

FN: 私の周りにも、家庭内で問題を抱える人たちがいましたが、そういう親だし仕方ない、それは別として生きていく、と考えている人が多いんです。それと同時に、何か生きづらいと感じていることも聞いていました。けれど、私は人に対して諦めたくなかったんです。ぶつかって行き、初めて見えてくるものがあり、そうやって納得してこそ、私は次に進めると思えましたし。年齢や境遇に関わらず、人間関係にそういうわだかまりを感じている人に観て頂いて、原動力に繋げてもらえれば嬉しいです。

Q: 次回作について。

TM: 今、他者との関係を、皆が模索している時期だと思うんです。昔の価値観が崩れてしまっていて、かつてあった様式を踏まえていけば、ひとりでに関係が築けるわけでもなくなっている。なんだか、個々人で放り出されている感じがするんです。そんな中、人がどうやって関係を結び付けていくのかに興味があり、そういうことを中心に据え、一本撮れたらと思っています。

(採録・構成:田中陵)

インタビュアー:田中陵、早坂静
写真撮影:遠藤奈緒/ビデオ撮影:黄木優寿/2003-10-13