English
YIDFF 2019 ともにある Cinema with Us 2019
心の呼び声
蔡一峰(ツァイ・イーフォン) 監督インタビュー

災害の後、被災者がどのように生きていくのかが重要


Q: モーラコット台風の被害に、心が痛みました。ブヌン族の集落を取材されたのは、どういう経緯だったのでしょうか?

TY: 今回土石流の被害にあった辺りには3つの集落があり、私は最初、比較的被害が少なく死者のでていない集落へ行きました。その後、今回の撮影地に行くと、集落の半分が無くなっていました。そこで映画に登場する兄弟と知り合って、住民が山を下りるのかとどまるのかという問題があることを知り、取材を始めました。2000年頃から、台湾の原住民の人たちを取材していたので、ある人から、あなたがこの状況を取材しなくて誰にできるんだ、と言われたこともきっかけになりました。

 私は、被写体の近くにいることが重要だと思っているので、当時は一緒に生活しながら、取材していました。報道関係者の多くは取材が終わると離れていきます。でも、私はその場所で彼らに寄り添うことが大事だと思っているので、最近は時々しか行けないのですが、今も彼らの生活を取材しています。

Q: 最初に被害状況を見た時は、どのように感じましたか?

TY: 台湾は台風の多い所ですが、こういった土石流を見たのは初めてでした。被害状況を見て、この後ここに人がまた住めるのかと思いました。実際に被災地へ行くと、もちろん災害の大きさや、自然の大きな力を感じるんですが、じゃあ我々はどうやって自然の中で生きていくのか? どうやって自然と向きあっていけばよいのか? ということを、この取材を通じて考えたいと思いました。

Q: 映画のなかで、慈済基金会と行政が、「永久屋」と呼ばれる復興住宅について、住民たちへの説明会をひらく場面がありましたが、監督自身はどのように感じていたのでしょうか?

TY: 家族や家を失ったばかりなのに、決断を求める慌ただしいやり方には、問題があると感じました。考える時間もなく、強く移るように言われ、移住したことで後悔している人もいます。移ってしまったけれど、将来は自分の生まれた場所で仕事がしたいと言っている人もいます。政府のやりかたは、住民のことを考えず、雑に決定を求めたところに問題があったと思います。

Q: 映画に出てくる兄弟のお兄さんの、いつ弟家族が戻ってきてもいいように、自分はこの土地を離れないという言葉や、弟さんが麓の街で農業の仕事をしている姿に、また近くで住める時がくればいいのにと思いました。

TY: 彼らは今、山の上と麓に別れて暮らしていますが、季節ごとに、何かあるごとに弟は戻ってきて、一緒に力をあわせています。お兄さんは、弟のために山の上の家を残していて、いつ戻ってきてもいいようにしています。

Q: 映画の中でブヌン族の人たちが、離れていった人たちの子孫のために、この土地にいたことがわかるように家系図を作ろうと言っていましたが、離れた人たちへの思いやりや、村の絆を感じました。

TY: 今年の父の日、山の上のキリスト教会と麓の教会が初めて合同で行う、災害から10年目のお祈りをしようというイベントがありました。今までも交流はありましたが、移住した人たちが山を上がってきて、お互いが許しあえたような、今後の関係を楽観視できるような気持ちになり、みんな感動していました。

(構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり、石塚志乃/通訳:中山大樹
写真撮影:桝谷秀一/ビデオ撮影:桝谷秀一/2019-10-11