許慧如(シュウ・ホイルー) 監督インタビュー
家族という夢をみること
Q: 出演者を雇って役割を与えるという構成に至った経緯を教えてください。
HH: いままでは、実際の状況を記録するという方法でドキュメンタリー映画を撮ってきましたが、本当に純粋な真実を映し出せているのか疑問に思いました。そのため今回は少し手法を変え、彼ら非正規労働者に非正規労働者を演じてもらうことによって、見えなかった真実が見えてくるのではないかと思いました。彼らに「今からあなたたちを撮影します」といってカメラを向けたとき、すごく緊張してうまくできなかったのです。そこで私は少し方針を変えて、「こういうものを演じてみてください」とお願いしました。すると逆にすごくリラックスして、本当の自分の姿を見せてくれました。
Q: 3人の疑似家族に加えて現れた4人目の男性も、同様に撮影に当たって役割を演じてもらったのでしょうか?
HH: 最初は3人の家族だけを写す予定だったのですが、警備員の方から「撮影場所である工場の廃墟にホームレスが出る」という話を聞いて、それを映画に盛りこもうと考えました。どうして彼をキャスティングしたかというと、今回のロケハンを手配してくれた高雄市のフィルムコミッションで、アルバイトをしていた方だったからです。アルバイト、つまり非正規労働者ですね。撮影場所を案内してもらうときに、彼が自分のことをいろいろと話してくれたので、それを映画に組みこもうと思いました。撮影の現場に本当のホームレスがつくった寝場所があったので、それを彼のすまいとして設定しました。
Q: 同じ空間の中に、3人の家族とホームレスとの生活があることに、不思議な感覚を覚えました。それぞれが描き出したかったものはなんですか?
HH: 最初は、男がいて女がいて、その子どもがいるという家庭像を撮ろうと思っていました。しかし、キャストの方々と親しくなるうちにそれぞれ家庭が崩壊している背景があることを知り、これは偶然ではないと気づきはじめました。そして4人目の男性についても、同じように家庭が崩壊していたことで、これはもしかして社会構造上の問題なのではないかという認識を得ました。それぞれから、社会の底辺に生きる貧しい人たちの姿というのが共通して見えてくるわけです。
Q: 3人の家族の背景に、彼らの行ってみたい場所を映像で映し出す場面が印象的でした。意図はなんですか?
HH: 私たちが彼らについて知っていたのは、彼らの生活のことや賃金のことだけです。あの場面では、彼らの夢について語ってもらうことが狙いでした。悲しいのは、それが恐らく実現できない夢だからです。彼らが家族のように食事をともにし団らんすることも含めて、今回の映画で形成したのはバーチャルな世界です。彼らの現実はあまり恵まれないものですが、バーチャルな世界では温かい家庭を演じてもらいました。
Q: 今回、キャストの方々と関わってみての感想は?
HH: 私は年齢や性別、仕事に関係なく人間を観察し、よく考えるということを映画を撮る目的としています。人間というのはどういうふうに生きているのかを自分で突き止めたいのです。彼らの環境は非常に恵まれていません。けれど、一瞬でも家族の温かさを感じたり、夢を持つことができたりすればなんとか生きのびていける。たとえ夢の裏側が空虚なものでも、そういうものが一瞬でもあれば生きていけるわけです。
(構成:菅原真由)
インタビュアー:菅原真由、猪谷美夏/通訳:樋口裕子
写真撮影:舛田暖奈/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2019-10-12