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YIDFF 2019 アジア千波万波
ソウルの冬
ソン・グヨン 監督インタビュー

直感から生まれたもの


Q: なぜ『ソウル1964年 冬』という小説を映画化しようと思ったのですか?

SK: もとの小説に、バーで出会ったふたりの男が、自分しか知らないソウルのある場所の話をずっと繰り返しているところがあります。同じ場所にふたりはいるけれど、違う場所の話をしている。その会話がとても実存的であり、映画的だと私は思ったんです。

 私は、ストーリーとか登場人物とか、もとの小説の構造ではないものを映画化したいと考えました。小説のなかに、1964年のソウルの冬というものを、実にうまく表現した文章があり、そのイメージや音を映像で表したいと思ったんです。また、風景と観客を繋げるものとして人間の身体が必要だと思い、書き手がモーテルで書いているシーンをいれました。

Q: 女性の声が入りますが、小説の本文を引用しているのですか?

SK: 本文を、直接引用しているのではないんです。全部シャッフルして、ランダムに選んだものを抽出するプログラムを使い、小説で使われている大切な言葉を残して、文章を繋げていきました。それが、映画のナレーションになったんです。もとの小説は消えたけれど、言葉のもっている生な感じは残ったと思います。実は私は、ウィリアム・S・バロウズのカットアップという手法からアイデアを得ました。言語というのは、あまりにも意味をひとつに決めてしまうので、映像とは合わないところがあると思います。ですから、本を読んだ時に頭に浮かんだ音やイメージを、映像で表現することにしたんです。音とイメージは、映画のエッセンスです。

Q: では、映画のなかで使っている音はどういうふうに選んだのですか?

SK: ソウルの市内を映しているときにはサイレント、モーテルの中では街の音とナレーションがはいります。ある意味、外と内がひっくり返っているわけですが、どうしてそうしたかというと、それは直感的なものなんです。小説を読んだときの、主観的で個人的な解釈をもとにしています。映画を作りながら、直感的にいろんな選択をしていったのですが、できあがって見直してみると、ああ、こういう理由だったんだなというのがわかりました。

Q: モノクロの映像によって、静けさとか寒さが表現されていると思いましが?

SK: これも、直感で……色があるのは違うなと思ったんです。小説を読んだ時に浮かんだイメージが、モノクロだったんです。もとの小説は1964年なんですが、撮影したのは2018年で、その時と今ではソウルはまったく違う街なので、古い場所を探して撮影するのは困難でした。

 私は、この小説を書いた人に映画化の許可をもらうために、会いに行きました。彼は脳に障害が出ていて、話すことができず、ぽつぽつと単語を書くだけなんです。その時、彼が書いたのは「1964年ソウル 2018年ソウル ?」でした。彼が何を言いたいのか、はっきりとはわかりませんけれど、何か政治的な意図があるのかと思いました。1960年代といのは、韓国が独裁政権下にあって、作家はクリアな政治的な目的をもって書いていたのです。ですが、私が小説を読んだ時には、若すぎて、そのなかの政治的な隠喩にまったく気づくことができませんでした。彼は、2018年のソウルを見て、どういうことを感じているかを言いたかったのかもしれません。

(構成:舛田暖奈、桝谷頌子)

インタビュアー:舛田暖奈、佐藤寛朗/通訳:冨田香里
写真撮影:田寺冴子/ビデオ撮影:田寺冴子/2019-10-12