ハラマン・パプア 監督インタビュー
パプア人の手によるリアルなパプア像を発信
Q: まずは、監督としてクレジットされているハラマン・パプアがどのような団体なのか、詳しく教えていただけますか?
HP: ハラマン・パプアは、2013年にフォーラム・レンテンが立ちあげました。フォーラム・レンテンは、映像や活字など様々なメディアを通して情報発信を行う、ジャワ島を本拠とするプラットフォームで、一般の人たちを巻き込んで活動するのが特徴です。パプア州での主な活動内容は、国際機関からの支援を受けて、パプアにおける健康問題を取りあげることでした。この映画は、そのプログラムと同時並行でやっていた映画作りのワークショップから生まれた、いわばボーナスのようなものです。
Q: ピウスおじさんもワークショップの参加者だったそうですが、他にもパプアの人たちが大勢いるなかで、彼をとりあげた理由はなんですか?
HP: まず、ワークショップというと、先生がいて生徒がいるという上下関係が存在すると思うかもしれませんが、そんなことはありません。ジャワからやってきた私たちは、あくまで「みんなで映画を作ろう」というワークショップのファシリテーターであり、ピウスおじさんもその場に参加していました。彼を面白いと思った理由は、夕方に仕事から帰ったあと、夜中の2時ぐらいまで、宝くじを当てるために数字を数え続けていたからです。6時間以上、毎日ですよ。私だけでなく他のみんなも、数を数えることにこれほどエネルギーを注ぐ人はいないと言っていました。非常に興味をそそる人でした。
また、ピウスおじさんを撮ることで、現地の社会的・政治的問題があぶり出されてきました。パプアでは、アルコール中毒・宝くじ中毒が二大社会問題になっています。パプアの独立に関する、政治的な問題もあります。独立について賛成か反対か、おじさんに訊ねたとき、「俺は決められたことに従うだけだよ」という態度でしたよね。パプアの大多数の人たちも同じではないでしょうか。独立に賛成も反対もしない中間層が実は大勢いて、彼らはとにかく平和に暮らしたいだけ。そういう人たちが紛争の犠牲者になって生活を脅かされているんです。
ジャワからやってきた私たちは、パプアの人たちにとってはよそものです。私たちがカメラを廻してしまうと、ステレオタイプなパプア像に囚われてしまう恐れがありました。そこで、パプアの構造的な問題を取りあげてくれることを期待して、彼ら自身にカメラを廻してもらいました。パプアでは、近代化の失敗という問題が、現在までずっと尾を引いています。そのために、戦争や暴力、死といったものが、冗談で使うような日常的なものになってしまっている。ただ、こういうことを真面目に撮ったのでは面白くないので、オルタナティブなやり方で楽しく制作することを目指しました。ピウスおじさんも楽しんでいましたよ。
Q: 作中でピウスおじさんが食べている白い粉は何ですか?
HP: 石灰です。パプアの人たちのあいだには、石灰とキンマの葉、それからビンロウの実を一緒にして噛む習慣があります。タバコの代わりとなる嗜好品です。味は唐辛子のように辛いですが、歯を強くすると言われています。噛んでいるとビンロウの色で唾液が血のような赤に染まります。みんな噛んでいるから、口の中が赤いんです。
(構成:長塚愛)
インタビュアー:長塚愛、宮本愛里/通訳:深瀬千絵
写真撮影:石塚志乃/ビデオ撮影:薛佩賢アニー/2019-10-13