崔兆松(ツィ・チャオソン) 監督インタビュー
自由を求める者・自由に懐疑的な者 〜映画から見えてくる中国の姿〜
Q: 監督が、インディーロック歌手ガンメーカーを撮ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
CZ: 3年前に中国のロック界の現状を撮ってみたいと思い、いろいろなバンドや単独のミュージシャンを撮影しましたが、想像していた雰囲気とはかなり差がありました。その後、友人がWeChat(中国のSNS)でガンメーカーの音楽・歌詞の内容を知らせてくれて、それに共感して強く惹かれました。実は私もミュージシャンになりたいと思っていました。彼の歌詞が、私が歌いたい内容ととても似ていて、彼の中に自分を見つけたような気がしたのです。彼も、私の撮影を快く受け入れてくれました。
Q: 撮影の1年前に、病と資金難を苦に自殺した、ガンメーカーのミュージシャン仲間ラオナーについて、監督は元から知っていましたか?
CZ: ラオナーについては、ガンメーカーから教えてもらうまで聞いたこともありませんでした。ガンメーカーも2回しか会ったことがないそうです。なので、彼がラオナーの恋人と旧知の仲のように談笑したり、ラオナーの父親とお墓参りをするシーンがありますが、そこまで深い関係性があることが不思議でした。ミュージシャンたちは、会うことは少なくてもSNSで交流は深めていたようです。ラオナーの発する反体制思想に対して支持者や仲間が多かったからか、というとそれだけではなく、彼の人柄が良くて慕う友人も多かったそうです。
Q: 公安によるガンメーカーの家宅捜索や、一般市民の住居を強制的に取り壊すシーンは衝撃的でした。ガンメーカーは「中国はどんどん悪い方向に向かっている」と見切りをつけてアメリカに移住しましたが、中国国民で海外に移住する人は多いのでしょうか? また、彼は「アメリカが世界平和を守る」とアメリカに強い信頼と憧れがありましたが、中国国民はみなそう思っているのでしょうか?
CZ: 海外移住について具体的な人数はわかりませんが、かなり多いと思います。ガンメーカーがアメリカに心酔していたのは個人的な思いからです。もしかしたら、民主化運動の活動家の中には「アメリカのような強い国が世界をリードする必要がある」と思っている人がいるかもしれませんが、これは個々の価値観の違いであり、一般的な中国国民がみなアメリカが大好きかというとそうではないと思います。
中国人には、皇帝に感謝するという数千年来の伝統的な思想があるのです。また、専制を擁護する思想もあり、ガンメーカーはそれに批判的で中国を見切ったのです。
Q: ガンメーカーやラオナーの政府批判を描く一方で、天安門事件の学生リーダーの「民主化運動が最も価値があることだと思えなくなった」「あの頃の選択はもう過去のこと」と当時を思い返して否定するような発言を入れたりと、監督には反体制を批判する意図があるようにも思えました。意識してそのようにされたのでしょうか?
CZ: 確かに意識して入れました。この作品に限らず、私が作品を作る目的は政府批判ではありません。政府を単純に批判することは誰でもできますが、意義は大きくないと思います。自分がいつも不思議に思っていることは、なぜそのような政府になってしまったかであり、そのことを考える必要があると思います。
(構成:大下由美)
インタビュアー:大下由美、田寺冴子/通訳:樋口裕子
写真撮影:徳永彩乃/ビデオ撮影:新関茂則/2019-10-11