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YIDFF 2019 インターナショナル・コンペティション
ラ・カチャダ
マレン・ビニャヨ 監督インタビュー

暴力で傷ついた多くの女性たちに見てもらいたい


Q: 劇団を撮影することになった経緯を教えてください。

MV: 2010年、エルサルバドルのNGOのプロモーションビデオを撮影するため、初めてエルサルバドルへ行きました。そのNGOがやっていた託児所に、市場の女性たちが子どもを預けに出入りしていました。今回撮影したメンバーとはそこで出会いました。

 3年後にエルサルバドルへ移住したとき再び会った彼女たちは、小さな劇団を始めていました。彼女たちの活動を紹介する映像を作ったときに、劇団の新作が「母親であること」をテーマにしたものだと聞きました。すでに稽古は始まっていて、演出家と「この演劇の稽古を撮影することは大切だね」という話になりました。すぐに、働いていた広告会社にあった古いテープ式のカメラを使って撮影を始めました。

 撮影の前から、演劇作品で自分たちの人生を語ることはすでに始まっていました。そのプロセスは非常にハードなもので、私自身もそれを見て変わっていきました。エルサルバドルの女性たちが受ける厳しい暴力の現実を私は知りませんでしたし、そのことを彼女たち自身が語る必要性がありました。彼女たちのことをさらに多くの人に届けるために、映画として撮っていく必要性を感じました。

Q: 劇団員の女性たちはカメラに撮られることに抵抗があったのではないでしょうか。

MV: 稽古や彼女たちの家のシーンの多くは、私ひとりで撮っています。最初、撮影監督の男性が参加することはできませんでした。パーソナルな話をするときに他の人は入らないでほしいと言われたのです。私は彼女たちと親しい関係を築いていたので、稽古の様子は、私ひとりで隅で淡々とカメラを持って、彼女たちが気がねなく演劇ができるよう、最大限に敬意を払いながら撮影していました。彼女たちの自宅の撮影も、最初はカメラなしで行き、徐々に関係性ができた段階で、カメラを持って家に行くようになりました。海で楽しそうに遊ぶシーンは、劇団メンバーのひとりから誘われて撮りました。劇場でも家でもない場所で撮ることのできるいい機会でした。その頃に、彼女たちと子どもたちの関係も良くなった段階だったので、みんなで繰り出したのです。

Q: この映画を誰に観てもらいたいですか?

MV: 劇団の舞台が終わると、お客さんが集まって来て、彼女たち自身の経験を話しはじめたり、大きなディスカッションになることもあります。私の映画が終わった後も、同じようなことになります。映画としていろんなフェスティバルで上映していますが、コミュニティに行って、彼女たちと同じような境遇の人に届けたいです。上映とともにワークショップをやることもできると思います。今度、メキシコに上映に行くのですが、市場で見せてはどうかという提案を受けました。普段、映画館に足を運ばないような人たちのところで映画を観てもらうのです。エルサルバドルというローカルなところでの話ですが、多かれ少なかれ似たようなシチュエーションはどこにでもあると思うので、そういったところに出かけて行って映画を観てもらいたいです。

(構成:猪谷美夏)

インタビュアー:猪谷美夏、徳永彩乃/通訳:川口隆夫
写真撮影:八木ひろ子/ビデオ撮影:大下由美/2019-10-13