邢菲(ケイヒ/シン・フェイ) 監督インタビュー
ごく中立的に 記録者として撮る映画
Q: この映画は、中国国籍を持っていた李小牧さんが日本国籍を取得し、日本国民として選挙に臨む姿を捉えた作品です。監督は普段から政治に興味を持っていたのでしょうか?
XF: 自分の中では、この作品は政治を題材にした映画ではなく、あくまで人間ドキュメンタリーだと位置づけています。李さんが行っているのがたまたま選挙活動だったので、政治関連の話はたくさん出てきますが、私としては人間を描きたかったのです。2014年9月ごろ、共通の知人から李さんが選挙に出ることを聞いて面白いなと思いました。李さんが当選したら、日本国籍を取得した中国人では初となります。歴史的出来事ですよね。結果はどうあれ、そうした挑戦は記録する価値があります。
Q: どのようなスタンスで撮影していたのでしょう?
XF: とにかく何も予想せず、中立に、そして客観的に撮るように心掛けました。撮影の最中に通行人にインタビューしたときにののしり声を浴びせられたり、きつい言葉を言われたりしたときは、少し緊張しましたね。普段はたずねられないようなことを質問されるので、「やっと誰か聞いてくれた」と、本音が出てくるのかもしれません。こちらが他意を持たずに取材しているので、通行人の方も安心して思いのままを話してくれたのでしょう。撮影は家庭用の小さなビデオカメラで行いました。まるで李さんの秘書が記録のために、あるいは李さんの日本語の練習のために撮ったかのようにも見えるかもしれません。日常を撮るためにあえてハンディカメラを使用したわけではなく、軽くて画質が良いからといういたってシンプルな理由から選んだだけです。
Q: この映画を観た人に感じてもらいたいのはどんなことでしょうか。
XF: 特にこれを感じてほしいという気持ちはありません。この作品には日中関係、中国人が帰化して日本の選挙に出馬したこと、日本人の外国人への態度などいろいろなトピックが詰め込まれています。人それぞれ関心を持つポイントは違うので、おのおのが自由に思考してくれたらうれしいです。「これを感じてほしい」と思って編集したことは一度もありません。時系列にプロセスを並べ、そのなかで起こった面白い出来事を映画に盛り込んでいます。テンポが早く、面白い話がつまった映画です。
Q: 監督が、映画を撮るときに心掛けていることはありますか。
XF: なるべく、結論ありきの映画にしないようにしています。最初の2週間は、李さんが演説している姿を撮りましたが、それだけをしていてもなんの変化、進歩もなく、壊れたテープのようにずっと同じことを繰り返しているだけだったので、私自身も撮影に飽きてしまいました。そこで、通行人に話を聞き、面白くなりそうなシーンを何も考えずに淡々とカメラにおさめました。ドキュメンタリー映画には、どうしても監督の主観が入ってしまうのは私自身よく分かっていますが、それでも努めてひとりの「記録者」であろうとしました。私はカメラのプロではないので、撮影のときも特別な手法は使いません。撮りたいものが撮れれば良いのです。やはり「記録者」ですから。
(構成:吉岡結希)
インタビュアー:吉岡結希、野村征宏
写真撮影:薩佐貴博/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2017-10-09