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『ドキュメンタリーが激突する街 山形映画祭を味わう』著者
倉田剛 さんインタビュー

映画の未知に出会える映画祭


Q: 本を拝見し、1回目の山形映画祭のアジア・シンポジウムの様子など、とても臨場感があると感じました。これまで、一回もかかさずに来ているとうかがいましたが、そもそもどういう縁で山形映画祭に来ることになったんですか?

KT: 小川紳介監督を応援していた、『映画新聞』編集長の景山理さんに誘われて、取材についてきたのが、最初です。私は京都に、土と藁と丸太で作られた特設映画館・千年シアターで上映された『1000年刻みの日時計』を見に行って、『映画新聞』を知りました。その、映画作家を応援し特集する形は他には無く、当時はとても斬新で、大阪で作っていたにもかかわらず全国で認識されていました。

 私は中学生の頃から映画ファンでしたが、初めはどうしても山形へ行こう、というまでの気持ちではありませんでした。でも、山形映画祭に来てみると、その力強さに驚きました。そこは、自分の中の今までのドキュメンタリーの概念が崩れていく、新しい発見の世界でした。そして山形の街や人々と出会い、ゆったりとした気持ちになることができました。それからは、何があっても行きたいと思うようになったんです。本職は高校教師だったので、赴任する学校によっては来るのが難しいこともあり、笑われるほど短い日程での参加もありました。2011年に定年を迎えて10日間滞在できた時は、喜びに溢れました。

Q: そして、山形映画祭が好きすぎて、本まで書かれたんですね。ところで、どういういきさつで出版することになったんですか?

KT: 配給会社パンドラの中野理惠さんからすすめられ、編年体で日記のように第13回まで記録してきたものを出版することになりました。いざ出版する時に編集者から、莫大な量の個人の日記なので読みにくいと指摘され、すごく悩みました。 結局、テーマ別にして量も半分以下まで減らし、すべて書き直すことで出版できるようになりました。この本をきっかけにして、多くの人が山形映画祭へ足を運んでくれれば嬉しいですね。

Q: では、あらためて山形映画祭の魅力を教えてください。

KT: 山形映画祭へ来ると、体がいいリズムになるんです。他の映画祭にはあまり行きませんが、他では、大阪や東京でも見られる作品が多いと思うんです。山形映画祭の場合、ここでしか出会えない映画が多いです。 特集上映の中身が奥深いのも魅力ですね。どれを選んで見ようかと毎回目移りします。また、それらのカタログも内容が濃くて楽しみです。それと、監督との距離が近く直接感想を話せることや、観客の間で情報交換ができるのが楽しいですね。

 それから山形映画祭の特徴は、受け皿が広く、ハードルが高いということだと感じています。作品や企画のレベルが高く、チャレンジのしがいがあります。新しいものを求める映画ファンにとっても、素晴らしく魅力的だと思います。ある面とても硬派であり、難解である部分もふくめて、映画の未知に出会えるような映画祭ですね。7年前に亡くなった友人の市川準監督に、一度山形映画祭を見せたかったです。

Q: 最後に、これからの山形映画祭に、何を期待しますか?

KT: いつまでも続けてほしいということと、これからも新しいものを発見できる場であってほしいと思います。それから、これから映画祭に来る人には、自分なりの映画祭を体験してほしい、自分なりの出会いかたをしてほしいと言いたいですね。

(採録・構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり、川島翔一朗
写真撮影:川島翔一朗/ビデオ撮影:川島翔一朗/2015-09-19 大阪にて