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YIDFF 2015
YIDFF 2015 先付映像
岩井天志 監督インタビュー

自然の中で撮る


Q: 民族的で力強い歌声と、石が綺麗に回転する不思議な映像に引き込まれ、とても神秘的だなと感じました。この「先付映像」は、どのような思いで作られたのですか?

IT: この作品は先付映像として使う予定ではなく、もともとは自分の別のプロジェクトのために撮っている素材でした。縄文時代の人たちの儀式やお祭りの記憶を、石や自然物を自然のなかでコマ撮りすることにより辿っていくものです。東北のルーツでもある縄文の思想というものを、海外の人にも体感してもらいたい、この映画祭だったらその思想を共有できるんじゃないかと考え、作らせてもらいました。

Q: 日川キク子さんの歌を使われていますが?

IT: もともと民族音楽を聞くのが好きで、いいアイヌの歌い手はいないかと探していたところ、YouTubeで日川キク子さんの歌を発見しました。調べたら、北海道で出版されている『阿寒(ウポポ)のうた』というCD付きの本の中に曲が納められていました。そこで、彼女の歌を録音した人に連絡をとって、日川キク子さんに今回の曲の使用許可をいただきました。

Q: 石をモチーフにした理由はなんですか?

IT: 今の社会は、人間中心でまわっていますよね。そして、自然をずっと破壊しつづけて今に至るわけなんです。僕が、日本が一番豊かだったと思う縄文時代は、自然の中で人間がどう生かしてもらえるかという思想の時代で、自然を崇拝し共存する自然中心主義の生活でした。それを現代社会は忘れてしまっています。だから、自分の体で山から石を運んで、動かして撮ってという、僕自身のフィジカルな体験をもって撮影してみました。撮影している間は、ずっと自然崇拝の気持ちになることができて、邪念が消えていくんです。そして、一種の瞑想状態になる事ができました。瞑想状態にならないとものづくりって面白くないですからね。この撮影は、僕にとってのメディテーションなんです。石をモチーフにしたわけは特に無く、木や葉っぱでも良くて、そこに生命が宿っているならよかったんです。

Q: 石が回転したり円を描いているのは、何をあらわしているんですか?

IT: それは、宇宙への交信と思ってやっています。ストーンサークルってありますよね。昔の人はストーンサークルをたくさん作ってきたし、それが、死への祈りなのか生への祈りなのかは分からないけれど、そういった交信しているものへの交信という意味で、円陣で回る方向も同じにする、という規則を決めてやってました。

Q: 作業はおひとりでやられたのですか?

IT: ひとりでやらなきゃだめなんです。メディテーションってひとりでやるものだから、手伝ってもらったりしちゃ意味ないんです。撮影は1週間ぐらいで、やってみると1日目はつらいんだけどだんだん覚醒してきて、この世界にハマっているというか、そういう状態になっていきましたね。

 『木を植えた男』じゃないけれど、自然のために祈るぐらいはしたいなって。今の社会で生きていると、自然に生かされているという精神を味わうことを、僕はしたくなるんです。こういうふうに、自分を強引にでも自然の中に落とし込まなきゃ、自然に生かされているということを素になって考えられないなって思う。だから、この映像は作品とは呼べないと思うんです。単なる行為だからね。僕のメディテーション行為なんです。

(採録・構成:鈴木萌由)

インタビュアー:鈴木萌由、高橋仁菜
写真撮影:管野茉子/ビデオ撮影:宍戸健太/2015-10-06 山形にて