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YIDFF 2015 ともにある Cinema with Us 2015
LIVE! LOVE! SING! 生きて愛して歌うこと
井上剛 監督インタビュー

あの風景を忘れてはいけない。人ごとではなく、常にそこにある


Q: 前作『その街のこども』でも震災を撮っていますが、今回はどんな思いを込めて撮影しましたか?

IT: 阪神淡路大震災を題材にした『その街のこども』のテーマは「寄り添う」でしたが、今回は「放り投げる」。子どもたちを福島の地に本当に放り投げました。前作で取り上げた神戸は、復興を遂げた後に撮影したので、震災で壊れてしまった街を想像しながら撮らなければなりませんでした。

 それに対して福島は、目の前に広がっている風景そのものが震災当時のまま、時が止まったままで、そこに子どもたちを放り投げました。本当のメッセージを届けるには、実際に子どもたちにそこに立ってもらい、感じたことを伝えるとよいのではないかと思ったからです。

 最初の場所に連れて行ったとき、子どもたちにシーンの状況をまったく説明しなかったので、ただ立ちすくむことも当然ありました。でも、自分たちでなんとか立ち上がり前へ進んでもらおうと思い、声をかけずに見守り、撮り続けました。

Q: 演技指導はあまりしなかった、ということですね?

IT: 一般的なドラマ制作にあるような演技指導は、ひとつもしていません。撮影後にどうだったのかを話すことはあっても、最初に演技指導をすることはなかった。演技というよりは、福島を訪れた人間の素直なリアクションや、感じたことを大事にしました。正解も不正解もありませんから、ありのままを映像として残しておきたかったのです。

Q: 最初の砂漠シーンでの「きれい」という言葉はセリフだったとのこと。セリフは前向きで、音楽は神秘的。しかし、広がる景色は悲壮感が漂う衝撃的なものです。対比を意識したのでしょうか?

IT: あれは狙いました。この映画の象徴というか、今回絶対におさめたかったシーンでした。不謹慎に聞こえるかもしれませんが、誤解を恐れずに言えば、あの場所はすごくきれいでした。人っ子一人いないし建物はまったくないし、まるで砂丘のようで、ここは日本なのか、とさえ感じました。

 映画を観ていくとわかるのですが、あの場面は街に入ってしばらく経ってからの、子どもたちがいろいろなことを受けとめ、受け入れるプロセスがあってのセリフです。それを鑑みれば、「きれい」というセリフも前向きにとれるし、音楽も加えたいと思いました。

 福島は東京から200キロしか離れていないのに、みんな、すごく遠くに感じているように思えてなりません。だからこそ、忘れてほしくないのです。福島は、あの砂丘のような風景は、あの時と変わらぬまま存在している。人ごとではないぞ、と。

Q: 途中で流れる「つもり」の歌には、「震災はなかったつもり」という歌詞も出てきますね。

IT: あれは一色(伸幸)さんの詩ですが、本当にすごいですよね。あの場面は、スタッフと街を取材しているときに思い浮かびました。工事関係者や行政機関の人向けに、「もうすぐ夜です。5時までに帰ってください」というアナウンスが流れてきて、僕らも帰らないといけない、と。でもふと、このままここにいたらどうなるんだろう、本当に人はいないのかなと思いました。

 家はあるけれど、見渡す限り人はいない。でもそこには、3年前の人の生活の気配やにおいが封印されているような感じがあって。だから夜になったら人が出てきそうで、人がいないことが信じられず、そんな不思議な雰囲気を撮ることはできないかなと思った末に生まれたのが、あの『つもり音頭』です。

(採録・構成:狩野萌)

インタビュアー:狩野萌、岩田康平
写真撮影:稲垣晴夏/ビデオ撮影:高橋明日香/2015-10-11