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YIDFF 2015 日本プログラム
Voyage
池田将 監督インタビュー

ちゃんと漂流する、ということ


Q: 劇映画とドキュメンタリーを織り交ぜたこの作品は、どのようなところからスタートしたのでしょうか?

IS: 2012年に馬喰町バンドがニューヨークツアーをやるというときに、彼らの試行錯誤する姿に寄り添いたいと思ったのです。でも、ただ付いていくのは面白くないから、どう形になるかわからないけど撮影を始めました。当時の私は、とてももやもやした気持ちを抱えていたのです。3.11以降のめちゃくちゃな状況で、映画を撮るという行為が、非常にウソっぽく感じられました。でも馬喰町バンドは、当時のそんな状況でも表現をし続けて、自分に影響を与えるものをつくっている。彼らと一緒にいることで、自分の中の何かが更新されるのではないかと考えました。

Q: 劇映画部分はシナリオを用意していたのでしょうか?

IS: シナリオはかなり細かく書きました。平吹正名さんは役者ですが、中涼恵さんは私の当時のバイト仲間で、演技経験ゼロでした。そこは平吹さんがうまく牽引してくれました。

Q: 2013年の「ヤマガタ・ラフカット!」で本作が上映された際、劇映画部分の挿入に懐疑的な意見があったことはどうお考えですか?

IS: たしかに、馬喰町バンドと、ハブヒロシ夫妻だけでも、素晴らしい時間を描けた。私にとっても、安心できる作品にはなったはずです。でも、それだけで成立させるのは、何か違うなとも思ったのです。一番の理由は、ツアーについていったときに、今まで見えなかったミュージシャンの姿勢が見えたことです。本番の前には事前準備がありますよね。その時に馬喰町バンドが楽器のチューニングをするわけです。その姿がとても美しかった。彼らがここまでチューニングをして、試行錯誤をして、本番に向かっているのであれば、私もこの映画をただの記録映像にしたくなかった。自分の尺度で、自分のやり方でチューニングができるのではないか。メンバーどうしの軽やかなチューニングに感動しているのは、たぶん自分も何かチューニングをしたいんだろうな、と思いました。映画を撮るという行為は、ただ単に、消費されるコンテンツをつくるということだけではない。やはり自分と世界をよりよくチューニングするためにあるのではないかと考えたのです。

 チューニングはもちろん、音楽をグッドなものにするための行為です。でも同時に不協和音というか、バッドチューニングも入れたかったのです。グッドチューニングとバッドチューニングをあわせることによって、全体的なチューニングと言うものに向かえるのではないか、と。

Q: 題名にもなっている“Voyage”という言葉は“航海”という意味ですね?

IS: 私はそこに、“漂流”という意味合いを込めました。3.11のときに、自分はどこかへ向かっているようで、実は漂流しているだけだという感覚があったのです。日本全体が漂流物のように感じられました。『Voyage』の最初のシーンはカップルの姿です。彼らは池の上でボートに乗っている。海でもないし、川でもない。池に潮流はないからどこへ向かっているかわからない。だけど、ちょっとしたオールのゆるい動かし方で、ちょっとだけ方向が決まっている。停まっているようで動いているし、動いているようで停まっている。そこに自分たちはいる。ここを描くことが、自分の中の決意表明でした。ちゃんと漂流する、という感覚になれたのです。

(採録・構成:山根裕之)

インタビュアー:山根裕之、野崎敦子
写真撮影:長瀧彩花/ビデオ撮影:山根裕之/2015-10-03 東京にて