黎小鋒(リー・シャオフォン) 監督インタビュー
経済発展の陰にある、「知るべきこと」
Q: 中国社会の現状が、多面的に、わかりやすい方法で描かれている映画だと感じました。制作の際に、楡林(ユィリン)に焦点を当てることにしたのはなぜですか?
LX: 私がはじめて楡林に行ったのは2002年なのですが、その時は西安から楡林までの数百キロをバスで行きました。その道すがらたくさんの乗り捨てられたトラックを目にしました。楡林という場所は中国で非常に重要な資源のある場所なのに、どうしてこのような状況になっているのだろう、ここにはいろいろな知るべきことがあるのではないかと考え、この地域に関しての情報、働く人々の情報を集め始めました。
Q: この映画は3つの立場の人々を異なる方法で撮影されていますが、それはなぜですか?
LX: 炭鉱についてのパートでは、家庭の崩壊、トラック運転手のパートでは、警察との問題もありますが、主に健康の崩壊、最後の仲介業者のパートに関しては、人間の信頼の崩壊、ということを描いています。私はこの構成の仕方には非常に納得していて、描く内容の違いによって、撮影方法も変わっています。
Q: 生活に密着して撮影を行われた、仲介業者の女社長と監督の間には何か信頼関係があるようにも感じました。
LX: 彼女は普段運転手たちと仕事をしていますから、気性が荒いというかそういった人たちと付き合いが多いわけです。だから私のように文化方面で仕事をしている人が珍しく、興味を持って接してくれたのだと思います。また同時に、彼女たちが困難に直面した時に、私も彼女たちの立場に立って考えていましたから、思いを共有できた部分があったのだと思います。
Q: 数ある仲介業者の中で、あの仲介業者を選んだのはどうしてですか?
LX: 彼女が経営していたあの会社が、一番人気で商売もうまくいき、活気がある会社だったからです。それはやはり、彼女の性格と関係があると思います。ご存知のように、彼女はたいへん義理堅い性格で、だから運転手たちも彼女の会社と仕事をしたがるのです。それなのに、映画の結末で描かれているように、彼女は家賃の値上げ、業者からの嫌がらせを受けました。それはひとつの信頼の崩壊と言えるかもしれません。それでもあの場所に残るという選択をしていますが……。
しかし社会の現状を考えますと、ああいった信頼の崩壊が起こることを理解できなくもありません。ですからそこから振り返ってもう一度、この映画を撮る目的を考えました。家庭、健康、信頼の崩壊、そういった道を歩んだ結果、彼らが得るものは一体なんなのだろうか、そうして生きていく意義は一体どこにあるのだろうかということを考えることになったのです。この映画の中国語のタイトルには、お金のためにいろいろな代価を払って、果たして何が得られるのだろうか、という問いが込められています。そしてそれは、私たちのようなドキュメンタリーの制作者がいつも追い求めている問いなのだと思います。中国は、改革開放以降、経済発展のために歩んできたわけですが、果たしてそれがどれだけ一般市民のためになったのかということは、考えていかなければいけない問題だと思っています。
(採録・構成:西山鮎佳)
インタビュアー:西山鮎佳、木室志穂/通訳:中山大樹
写真撮影:黄木可也子/ビデオ撮影:黄木可也子/2013-10-15