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YIDFF 2011 アジア千波万波
偽りの森
ジャカワーン・ニンタムロン 監督インタビュー

アフリカで映画を撮るということ


Q: この映画は、ある企画に基づいて作られたとのことですが?

JN: この映画のそもそものはじまりは、2009年のロッテルダム国際映画祭のフォーゲット・アフリカという企画でした。これは翌年の同映画祭で上映することを目的として、世界各国の映画監督たち12人に、アフリカ大陸を旅して映画を制作させるという趣旨の企画です。またその一部として、今回の映画のドキュメンタリーパートに描かれる、現地の無名の映画監督を探し出して、作品を撮ってもらい、オランダで上映したいという思惑がありました。私がここに参加しようと思った大きな理由としては、西洋人のなかで、彼らの第三世界に対する視点に興味を持っていたことが挙げられます。西洋人は昔から、未開の地に出向いて自分はその土地の最初の発見者だ、そしてその土地は自分のものだと主張したがるように思います。私は、これは一種の文化侵略ではないかと考えていて、その西洋人と同じ立場から企画に参加することで、その一端を知ることができるのではないかと思ったのです。

 結果として、この企画は大成功というわけにはいきませんでした。そもそもアフリカで才能豊かな映画監督を発掘し、その土地の映画業界の発展に寄与することを目指していたのに、何らその状況を変えることはできず、自分たちだけが作品という形で利益を持ち帰ってしまったからです。西洋人が未知の国におもむく時、そこには自分の魂を探しに行く、発見するということをまず願う姿勢がいまだにあるように思いますが、これは無意識のうちに、その土地の人々を含めた周囲に悪影響を与えているのではないかと感じました。

Q: 『偽りの森』という題名と作品の内容について、作品を鑑賞しただけではその関連を理解できなかったのですが、どのような意図があるのでしょうか?

JN: これは、私たちが現地に向かうより以前に抱いていたアフリカに対するイメージに関連しています。アフリカには、ジャングルのような豊かな森があるのではないかという印象があったのです。しかし実際には、撮影をおこなったザンビアに森は見当たらず、あったとしてもせいぜい茂み程度のものでした。自分たちがそれまで信じていたアフリカは、マスコミが見せたいアフリカのイメージをただ受動的に飲み込んでいただけに過ぎないのだとつくづく感じさせられました。アフリカに森はなかった、そんな体験を通してこの題名を作品につけました。ただ、見知らぬ国を訪れて意識を刺激されたのも事実です。ザンビアは作品の素材となり得る様々な要素のある国で、帰国後は映画以外の作品も制作しました。

Q: フィクションとドキュメンタリーが交錯する、この映画の構成を大変興味深く感じました。

JN: フィクションとドキュメンタリーをそれぞれのフォームで作ろうという大まかな骨組みは、企画段階から決まっていたことなのです。ただ私はもともと、映画の制作にあたって計画を組んでゆくという作業は得意ではありません。直感的に、ある映像をみて感動したから次につなげてゆくというように、ひとつの画面から気持ちを伝えてゆくという作業を積み重ねて制作をしています。今回の作品に関して言えば、フィクションパートを監督したホァン・ワトソン・ムトゥタ(ドキュメンタリーパートにも登場する)を監督に選んでいなければ、まったく違った作品になっていたことは確かでしょう。

(採録・構成:小林李々子)

インタビュアー:小林李々子、野村征宏/通訳:高杉美和
写真撮影:大場真帆/ビデオ撮影:梅木壮一/2011-10-10