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YIDFF 2009 アジア千波万波 特別招待作品
外泊
キム・ミレ 監督インタビュー

母、妻、労働者 女性の葛藤


Q: 同じ女性として、今回のストライキをどのように感じておられましたか?

KM: 多くの人の生き生きしている姿が、頭に残っています。その叫び声やときめく姿を、メッセージとして伝えたいと感じました。今回のイーランド闘争を通して、彼女たちは労働と家庭からの、二重の解放を得られたと思います。女性たちは、家庭の中で母、妻、主婦など、様々な役割を担っており、かなり負担を感じています。そんな彼女たちにとって、外泊をすることは楽しみでもありました。それは普段、家庭と仕事のふたつの責任を負っている分、私たちの想像以上の喜びだったと思います。また、韓国の労働運動の進歩的な支援者は、労働運動には取り組みながらも、こういった女性の本質的な問題について、考えが及んでいなかったようです。そういった点も、この映画に入れたいと考えていました。仕事と家庭の両立をどうするか、女性がストライキをすることがどれほど大変なものか、女性と一緒に、男性にも考えてほしいですね。

Q: 女性たちの歌っている姿が、とても魅力的で、印象に残りました。監督ご自身の思い入れのあるシーンなどはありますか?

KM: 今回、急に占拠するということを聞き、あわてて撮影に行ったので、技術的にあまりうまくできなかった部分がありました。にもかかわらず、カメラに映る彼女たちはとても美しかった。彼女たちは、化粧をしているわけでも、綺麗な服を着ているわけでもないですし、あの場で寝泊まりしているわけですから、顔を洗えないこともあります。水色のTシャツを着て、行ったり来たりしているだけなのに、彼女たちの表情、顔はとても美しく、輝いていました。中でも私が好きなのは、朝起きると「民衆歌謡」を歌っている姿です。内容が硬めの歌なので、普通は動きも硬くなりがちなのですが、彼女たちはまるでナイトクラブで踊るかのように、なめらかに踊っていました。常に母親としての存在であった彼女たちが、母でもない、妻でもない、“私”になれたことが体にも表れていて、普段の拘束から解放された姿がよく出ていました。

Q: 釜山映画祭での上映では、観客の反応はいかがでしたか?

KM: 釜山では、かなり多くの人が泣いていました。この闘争は、韓国で広く知られたものだったので、この現実を見て、心を痛める人や反省している人も多かったようです。企業の人たちは、この闘争を通して、女性労働者やパートタイマーを軽んじるのは、良くないと感じたはずです。ですが、この闘争が失敗したことで、元のままでも構わないんだ、という風潮になれば、ますます女性の立場は弱くなりかねないので、それを残念だと感じている人もいました。闘争に参加していた方も来ていたのですが、この闘争を通して、もっといい社会を望む思いもあっただけに、心を痛めていたようです。結局は、何も変えられずに家に帰ることになってしまったわけですから。女性労働者の方々は、純粋なエネルギーで懸命に闘ってきました。ですが、この熱が冷めてしまえば、いつまた声を上げられる状況になるか分かりません。社会はどんどん保守的な状況に走っているので、女性たちが声を上げづらくなっているんですね。そういった状況から、絶望感や憐れみを感じている人もいました。

(採録・構成:森藤里子)

インタビュアー:森藤里子、保住真紀/通訳:根本理恵
写真撮影:薬袋恭子/ビデオ撮影:鈴木大樹/2009-10-12