佐藤零郎 監督インタビュー
“まともな生活”とは、当人が決めること
Q: 所属されているNDS(中崎町ドキュメンタリースペース)とは、どんなグループですか?
SL: もとは関西で、原一男監督や佐藤真監督のドキュメンタリー講義の受講者が、修了後も作品を撮り、批評し合う活動をしているグループです。
Q: 暴動場面は、長居公園のできごとですか?
SL: いえ、あの暴動は大阪市西成区です。あの場面の挿入は、西成区が日雇い労働者の多く住む所だからです。不況と高齢化で仕事が無く、生活ができなくなった人が、長居へ移住しました。それと、今回長居では“芝居”という形で行政と対峙しました。暴動での抵抗との違いを表現したかったんです。長居では、「非暴力直接主義のワークショップ」が開かれ、暴力・非暴力とは何か、考えられていました。だから、あの場面を入れました。
Q: 長居公園では芝居を定期的に上演していたのですか?
SL: 長居公園では、普段から若者が、野宿者や支援者と交流していて、若者たちはよく遊びに来ていました。その中に芝居をする人がいて、そのうち野宿者や支援者と一緒に芝居をはじめました。靭(うつぼ)公園での強制撤去後、京都大学で上演し今回が2回目でした。野宿者たちは、芝居をすることで「ここで、生きた」証しを遺しておきたかったんです。
Q: なぜ、このできごとを撮影したのですか?
SL: 大学で、自分が知らない近くの人を撮影する課題があり、勝手に交通整理をする野宿者を撮影しました。その後、西成公園で、日雇い労働者の現状を知り衝撃を受けました。そこで靭公園での撤去の記録を頼まれ、支援者が泣き叫ぶ姿や、いつも優しい野宿者の暴力的な姿に困惑し、その場だけの撮影に違和感を感じました。そんな時、長居で強制撤去があると知り、ドキュメンタリーが撮りたいと、長居でテント生活をしながら支援活動をしている中桐康介氏に相談し、彼の紹介で自分もテント生活を体験しました。
Q: 強制撤去の時に集まった支援者を、どう思いましたか?
SL: 支援方法を話し合う場面では、支援者同士で意思の疎通がありました。靭公園での暴力による抵抗で、マスコミに批判されたので、当事者である野宿者の気持ちを考えて運動するワークショップを開きました。その際、パレスティナのことなどインテリの話を持ち出すな、という雰囲気がありました。でも、弱い立場の人間が悲しい思いをする構造は一緒だと思います。そういう想いを、野宿者たちが理解できず、気持ちが離れていってしまうことがあるという、支援者側の葛藤を、あの場面で表現しました。
Q: この作品で、観客にどういう所を見てほしいですか?
SL: あの芝居では、住まいが壊される時に、潰しに来た相手へ「俺とお前は友達で、繋がりうる存在だ」と訴えました。前線にいるガードマンは、不安定な雇用を強いられていて、野宿者とそんなに遠くない立場だと思います。彼らの中にも、そういう相手と対峙するのは、辛いことだと思う人もいました。そこで、芝居を続けたのは凄いと思います。
Q: 取材して、野宿者への支援には何が必要と考えますか?
SL: 各々で求めているものが違うので、何が最良かは分かりません。支援者は常に、そのことについて葛藤を抱いています。どれが“まともな生活”かは、他人が決めることではないんです。
(採録・構成:楠瀬かおり)
インタビュアー:楠瀬かおり
写真撮影:柴田誠/ビデオ撮影:柴田誠/2009-09-25 大阪にて