パーヌ・アーリー 監督インタビュー
日常生活は劇的ではない
Q: 映画でジューンやエイクの生き方に触れて、温かい気持ちになりました。この映画を撮ろうとしたきっかけを教えてください。
PA: 同時多発テロやタイ南部の暴動によって、タイではイスラム教徒のイメージが悪くなりました。その中で前作の『In Between』は、イスラム教徒の監督として、イスラム教徒の思いを表す映画を作ろうという気持ちから生まれました。穏健派イスラム教徒についての話です。まだ伝え足りないと思っている時に、偶然、共同監督のカウィーニポンの友人ジューンがイスラム教徒と結婚すると知り、映画を作ることにしました。
Q: ジューンさんは自然体で、映画を見ているとまるで自分の友人のひとりから話を聞いているように錯覚してしまいます。撮影にあたりジューンさんとどのように信頼関係を築きましたか。
PA: ジューンはもともとオープンな人です。それでも2カ月位は上手くいきませんでした。どうしても、ふたりが撮影を意識してしまうのです。プライバシーが欲しいと苛立ってしまうこともありました。そこで4カ月間私たちが撮影した後、ジューンにカメラを渡し、ジューンとエイクに撮り合ってもらうことにしました。それによって、自然なジューンとエイクの掛け合いが撮れたと思います。
Q: ジューンとエイクがけんかをするシーンが映画になく、ジューンやエイクの口を通して語る形式にしたのはなぜですか。
PA: タイの観客からも、けんかのシーンが見たかったという意見がありました。しかしながら、私はそういったシーンをカメラにさらすべきではないと思います。日常生活は劇的ではありません。私はけんかのシーンを印象づけたいとは思いませんでした。
Q: ジューンさんは、イスラム教に改宗することに対して、あまり抵抗がなかったという印象を受けました。タイで、イスラム教に改宗することは一般的にどう考えられていますか。
PA: タイにおいて、改宗はとても特別なことです。ジューンは最終的に、父親の助言によって決断しました。私自身も、父親の言葉には驚きました。ジェーンの父親は、イスラム教国家に住んだことがあります。イスラム教徒の友人も数多くいます。だからこそ、あの言葉を言うことができたのでしょう。また、一般的に情報が多い都市部よりも、ジューンの家族が住むような田舎のほうが、偏見なくイスラム教を受け入れると言えると思います。
Q: イスラム教徒としてジューンやエイクが、1日5回の礼拝をするシーンがありませんでした。タイのイスラム教徒は、厳密さにあまりこだわらないのですか? ラマダンの断食に失敗しても「努力することが大事」というセリフもありました。
PA: 場所によります。バンコクのイスラム教徒は、厳密さにこだわっている人が少ないと言えるかもしれません。私も、エイクがなぜジューンに礼拝を教えないのか疑問に思いました。しかしながら、エイクに直接理由を聞くのは同じイスラム教徒として、とても失礼なことです。エイクはジェーンを愛しています。想像ですが、ライフスタイルが激変して大変なジューンに、早急にたくさんのことを求めてはいけないと思っていたのではないでしょうか。
(採録・構成:土谷真生)
インタビュアー:土谷真生、三浦規成/通訳:新居由香
写真撮影:芝克弘/ビデオ撮影:芝克弘/2009-10-10