ウケ・ホーゲンデイク 監督インタビュー
内側からの革新
Q: あなたのこれまでの映画は、あなたにも非常につながりの深いホロコーストというテーマを扱ったものでした。今回の映画が、あなたに関わりの深いものとなった経緯は?
OH: おっしゃるとおり、これまでの映画では、私にとって必然的なつながりのあるトピックを扱ってきました。私の母はホロコーストの生き残りでしたから。私は自分で選んだテーマ、個人的に関係があるテーマについての映画を作るほうが好きです。でも、この映画に関しては、アムステルダム国立美術館の改修を記録するプロジェクトを引き受けてほしいと、プロデューサーが私にアプローチしてきたんです。最初は悩みました。このプロジェクトに私がふさわしいかどうか、長いこと真剣に考えましたが、結局やることにしました。
アムステルダム国立美術館のために働く職員は約400人いるので、この映画を作るに当たってのリサーチが大変でした。いきさつについて、できる限りたくさんの情報を集めようと関係者全員と話すことは多大な努力を要しました。テーマについてよく調べ、誰と話すべきか、誰とは話す必要がないのかを見極めるのに、約1年かかったんです。人々と話し、彼らと親しくなり始めて、美術館を改修するプロジェクトは、職員自身の自己改革をも必要とする巨大なものなのだと気づきました。会ってコーヒーやお茶を飲むことで、徐々に彼らとの会話や関係を深めていきました。彼らが私に対して心を開き、何について悩んでいるかを明らかにしてくれたことが、次々に新しい刺激的なストーリーラインへとつながっていったのです。私は彼らを通して、この映画についての認識を深め、美術館との親密な関係を築きました。最初は脚本に固執していたのですが、突然「こんなのは意味がない」と思い、脚本を捨ててゼロから始め、実際に起こっていることに集中するようにしたので、臨機応変な撮影の仕方を学びました。
Q: オランダで映画を上映した時、市民や美術館の役員や政府の役人などから、どんな反応がありましたか?
OH: サイクリスト組合は、映画の中での自分たちの描かれ方が偏り過ぎていると、少し腹を立てていました。彼らの主張や懸念が十分に示されておらず、自分たちが茶化されたイメージで描かれていると思ったのです。でも美術館の役員たちや他の市民たちの間では、上映会は好評でした。「すばらしい」とか、「なぜこんなことになったのか?」などという意見を多数聞きました。今では美術館は、この映画を利用して、さらなる支援を得ようとしています。そんなことは私の意図ではなかったのですが。文化大臣までが上映会に来て、サイクリスト組合の行き過ぎについて言及しました。もっと大きな話としては、政府が、市議会に与える権力の度合いについて、政治システムの構造の見直しを始めたことが挙げられます。これについては、この映画にそんな影響力があるとは全然考えていなかったので、うれしく思っています。私の目標は芸術作品を作ることでしたが、こういうことが起こるのはいいことです。
Q: ドキュメンタリー映画を作りたいと思っている人たちに、アドバイスをお願いします。
OH: 常に自分の直感を信じることですね。自分の内なる声に耳を傾け、その表現の仕方を見つけて映画に使う……、それは人生全般について言えることだと思います。
(採録・構成:アイソム・ウィントン)
インタビュアー:アイソム・ウィントン、野村征宏/翻訳:村上由美子
写真撮影:村上由美子/ビデオ撮影:知久紘子/2009-10-12