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YIDFF 2007 交差する過去と現在――ドイツの場合
ブラック・ボックス・ジャーマニー』|『キック
アンドレス・ファイエル 監督インタビュー

作品というトレジャーボックス


Q: 『ブラック・ボックス・ジャーマニー』についてうかがいます。出自のまったく違うふたりをテーマに映画を作ったのはなぜですか?

AV: 彼らはドイツ史の大きなインパクトを受けていたという点でとても似ています。ヘアハウゼンはナチスのエリートスクール出身で、グラムスはナチス親衛隊員の息子です。ドイツ史に翻弄されたふたりの生き方をクロスさせることによって見えてくるものがあると思い、映画を作りました。テロ組織とのかかわりとも絡めていこうとも思いました。なぜグラムスのような若者がそのような組織に入ったのかが知りたかったのです。彼の決断は簡単なものではなかったと思います。また、そのような若者にも家族がいて、ひとりの人間であるということを知らせたかったのです。加害者をモンスターと決めつけるだけでは社会のひずみの中にあるものが見えません。

Q: 映画を撮ることで真実に近づくことができたと思いますか?

AV: 真実を知ることが私の目的ではありません。誰がヘアハウゼンやグラムスを殺したか、ということには興味がありません。真実の奥に隠れたドイツの歴史、社会性を追うことが私の目的です。映画を撮るために3年半くらいリサーチを行いましたが、歴史の背景にあったものを知るためのプロセスが、私にとっては重要でした。

Q: 『キック』についてうかがいます。なぜ俳優を使うという実験的な映画にしたのでしょうか?

AV: 被害者の遺族たちにカメラを向けることが不可能だったからです。彼らは、マスコミの餌食になることを非常に嫌がっていました。私はマスコミではないのですが、彼らにとってカメラはそれとまったく同じものであり、受け入れてもらえる状態ではありませんでした。インタビューをするというストレートな道は通らなかったのですが、それでもリアリティに近づくことはできたと思います。俳優たちには事前に情報を与えずに、人の真似をしないように、と指導しました。

Q: 監督の演劇の経験は、今回の映画に反映されていますか?

AV: 大まかに3つあります。まず選択することです。リサーチから多くのページができあがりました。しかし使ったのは一部分です。どれを使うか、使わないかということに自分の責任がありました。次に順番を決めることです。どのセリフをどういう順番で話すのかということです。そして配役です。ふたりの俳優にどのセリフを言ってもらうかを決めます。あとは肩の上げ下げなどの細かな演技指導ですね。

Q: 両作品に共通するものとして、事件や個人に立ち返って考えるという姿勢があると思いました。

AV: まったくその通りです。事件が起きれば裁判が行われます。裁判が終われば人々は事件を忘れてしまいます。新たな事件が起きるたびに世の中がそれを忘れていくことは、私にとって嫌なことでした。ちょっと立ち止まって、元に戻って細かい部分を見ていくことができる、そういう意味で作品は「ブラックボックス」なのですが「トレジャーボックス」、つまり宝箱であるわけです。

(採録・構成:清水快)

インタビュアー:清水快、峰尾和則/通訳:高橋安以子
写真撮影:金子裕司/ビデオ撮影:金子裕司/2007-10-08