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YIDFF 2007 ニュー・ドックス・ジャパン
遭難フリーター
岩淵弘樹 監督インタビュー

生きるうえで
遭難しているのは、みんな同じ


Q: 東京の上映会では、観客の反応はいかがでしたか?

IH: 団塊世代とか年配の人が多くて想定外でした。若い頃、情熱持って学生運動やってたのを思い出したとか、エネルギーを感じたという反応がありました。一方で、暗い、ラストは絶望的だとか……若い人だと自由を感じたとか、いろいろですね。ラストの捉え方で分かれるみたいです。

Q: 私は、ラストのシーンに躍動感を感じ、映画らしい、美しいとも思いました。監督自身はどのように感じていたのでしょう?

IH: 当時は、疲れすぎていて何も考えず歩いている、聴いている音楽に合わせて足を動かしている、ただただ前に進むだけという状態でした。その時流れていたのはYMOでした。たまたまですが。

Q: 偶然の出来事とはいえ、作品のラストに、あのシーンを持ってきた意図というのは?

IH: 1年近く撮ってきて、「それそろ映画終わらせなきゃ」という気持ちはありました。生活もギリギリでしたし。そんな状態で歩いていて、撮って、喋って、帰りぎわに「終われる」「終わりだ」という気が直感的にしたんです。それまでは撮りっぱなしでしたが、初めてその場でしゃがみ込んでビデオを見返しました。ラストに流れる音楽もその時聴いてた曲です。編集していた時も、頭にあったイメージとこのシーンがぴったり合ったんで、作品のラストはこれだと決めました。

Q: 「遭難」というタイトルの言葉も新鮮に感じました。

IH: プロデューサーの土屋豊さん、アドバイザーの雨宮処凛さんと3人で相談して決めました。今の状況に、いつ迷い込んだのかわからない、自分で迷っちゃっている、どっちに進めばいいのかわからないという面で、まさに「遭難」だと思います。たとえば「難民」だと、悪者がいて、そういう状況に人々を追い込んでいるというイメージがありますが、そうではない。ある意味、みんな迷っている、フリーターじゃなくてもみんな遭難してるじゃないか、という。

 僕自身は、フリーターの現状は、社会が悪いせいだけとは考えていないんです。むしろ自己責任として考えています。だから、考え方は雨宮さんや土屋さんとは違うんです。ただ、デモとかビデオアクティビズムとか、ふたりの行動力はすごいと思います。そういう面で影響受けました。

 土屋さんは、僕にとってはプロデューサーというより総監督という存在でした。映画作りの勉強になりました。構成とか、起承転結を考えるとか。原稿段階から数えれば、何十回とやり取りをしました。ラストシーンも、はじめは完成版の倍くらいあって、ナレーションも入ってなかったんです。それが自分の感覚だったんですが、それでは長すぎる、ダレるということになって……。

 今回、表現のしんどさを実感しました。観るたびに、ナレーションの言葉はこれでよかったのかとか考えます。答えがないですね。完成しても、全人生は語り尽くせなかったという気がします。

Q: 映画祭への意気込みはいかがですか?

IH: 学生の頃、香味庵で酔った勢いで宣言したことが実現したわけで……何だか早すぎますね。とにかく、たくさんの人、特に若い人に観てほしいです。

 今回、作品作りを通して、単純に「伝わる」ことの気持ちよさを感じました。自分がひとりで考えていたことが人に伝わることは、本当に気持ちいいです。知らなかった快感を味わいました。

(採録・構成:熊谷順子)

インタビュアー:熊谷順子、丹野絵美
写真撮影:田中陵/ビデオ撮影:田中陵/2007-09-30 仙台にて