想田和弘 監督、山内和彦 氏 インタビュー
映画にメッセージはいらない、描写がしたい
Q: 山内さんはカメラを向けられている時、サービス精神があったのかなと思いましたが?
山内和彦(YK): 正直、ありました。たとえば、カーネル・サンダースと握手するシーンです。
想田和弘(SK): 僕からは頼んでないんです。僕は、なるべく山さんに質問や忠告をしませんでした。「なぜ自民党から出馬したのか?」とかよっぽど聞こうかと思いましたが、それを聞くと僕が保ちたい距離感が壊れてしまうのではないかと思ったので堪えていました。ある意味で僕も演技をしていたんです。
Q: 山内さんたちが朝の駅頭に並んで「山内和彦です、いってらっしゃいませ」と演説するシーンについて。
YK: 今思うとあれは何だったんでしょう?
SK: 僕は心の中で笑っていましたよ、そりゃあ。でも、おもしろいのは、あの時実際に通り過ぎていった人で、笑っていた人は誰もいなかった点です。皆、あの状況を日常生活の一部分として受け入れているから、それにカメラを向ける行為は、実は不自然なことなんです。普通、カメラを向けるのは何か特別なことに対してですが、何でもない日常にカメラを向けると、それが特別なことになるというのが、僕の逆転の発想です。選挙という題材が今まであまり撮られてこなかったのも、あまりに身近で当然なことなので、誰もカメラを向けようと思わないからです。
Q: 『選挙』の受け手の反応はどうですか。
YK: この映画を観て驚きが少ないのは、選挙をやったことがある当事者や手伝った人たちです。「俺たちもこんなことやっているんだ、こういう苦労を知ってくれ」という感想ですね。その立ち位置から遠ざかれば遠ざかるほど、観客に笑いがおこったり映像が奇異に感じられていく。一番遠いのは日本文化を知らない外国人です。
SK: たとえば、外国では満員電車のシーンで必ず笑い声がおこる。僕もニューヨークで14年間暮らしていて、僕の目線は日本とは一定の距離感があるので、帰国する度にいろんなことが新鮮に映るんです。満員電車は日本の精神構造をよく表していると思う。僕の中では満員電車と選挙運動の在り方には共通点があって、そこからは日本のメンタリティのエッセンスが見えてくる。編集の段階で、それを構造として抽出できないかと考えました。撮っている時は無我夢中でしたのでそれほど意識しませんでしたが。
Q: 60時間の映像を2時間に編集するのに、10カ月かかったそうですね。
SK: 編集のプロセスは、最初は自分の記憶の中でおもしろいと思ったシーンからどんどん編集していきます。それから大体の順番に繋いで試行錯誤する中で段々ストラクチャーが見えてきて「山さん40歳の挑戦」「選挙運動」「日本文化」などのキーワードが浮かんできます。そのキーワードが明確になることに気をつけて編集していきました。
実は、その前に最初の2カ月で仕上げたものがあって、すごく気に入らなかったんです。それは短いカットを繋げていってキャッチーな編集でわかりやすかったけど、観察映画にはなっていなかった。というのは、編集が訴えかけてしまっていて観客が考えたり観察できる余裕がなかった。だから僕はそれを捨てて、再び編集を一からやり直しました。観察映画には、作り手が虚心坦懐な目で観察することと、観る人がスクリーンで起こっていることを観察するという二重の意味があるんです。
(採録・構成:山本昭子)
インタビュアー:山本昭子、峰尾和則
写真撮影:峰尾和則/ビデオ撮影:加藤孝信/2007-09-23 東京にて