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YIDFF 2007 アジア千波万波
象の間で戯れる
アルヨ・ダヌシリ 監督インタビュー

友情を超えたシネマ


Q: 「観察する」という撮影スタイルを選んだのはなぜですか?

AD: 私は大学院まで人類学を学び、さらには映像民族学も学びました。そういった経緯もあって、観察型シネマという手法をとりました。映画作りについては、本を読んだりしながら独学で学びました。映画にしようと思ったのは、何と言っても、映画がパワフルだからです。人類学の本はたくさんありますが、あまり読まれていないですよね。本を読むより、映像で自分が学んだことを見せるほうがよりパワフルだと感じます。自分の研究にしても、本を書くより映像にしたほうが、より多くの人の目にふれると思います。「文化の知識」というのは文字で伝えられますが、映画で伝えられることにはまた別のことがあると思うんです。それを一番伝えられるのは、人間を通してのこと、だと思います。

Q: 監督はジャカルタ出身ですが、アチェを題材にしたのはなぜですか?

AD: インドネシアはご存じの通り島国ですが、他の島に関しての情報を得る機会が少なく、新聞やテレビなど、行き渡っているものがないんです。情報がないからこそ、自分たち以外のことを知るように努めています。世の中には、ステレオタイプな、ネガティブな見方をする人々もいます。だから、実際に行って自分の目で見たかった。これもネガティブな見方ではあるのですが、インドネシアの人々には、アチェという場所は、紛争地帯、絶えず争いが起きている場所として捉えられています。また別の側面を見れば、アチェはインドネシアで2番目に貧しい州のひとつです。アチェの津波から1年が経った今、復興があまり進んでいません。家を建てるのは簡単なことなのになぜうまくいかないのか? 特にアチェという場所においてなぜ、復興がうまくいかないのか? そこのところを、ネガティブでステレオタイプな見方をする人たちがいますが、実際には、家を建てるのはとても難しいことです。では何が難しいのか、という肝心なところを映画にしたかったのです。

Q: 人間関係をある程度作ってから、撮影に臨んだのでしょうか。

AD: おっしゃる通りです。私の場合、リサーチ・バイ・カメラで、撮りながらリサーチしていくという方法です。カメラを民衆と自分との触媒として使います。今回は、地元の人をひとり付けて、自分自身で撮影しました。そして、実験的に3人の主人公を撮ってみたのですが、物語は人間関係を築くことによってできてくる、という面があるんですね。ですから、村長ひとりに絞って追っていくのが戦略的ではないかと考えました。正式な記録かどうかわかりませんが、彼は、一番若い村長、ということで、再建・復興に奔走していました。

Q: 村長とはとても仲がよかったようですね。

AD: もちろん。9カ月も一緒にいましたから。だから私はよく言っているのですが、観察型シネマは「友情を超えたシネマ」です。

(採録・構成:奥山奏子)

インタビュアー:奥山奏子、楠瀬かおり/通訳:杉浦外志子
写真撮影:海藤芳正/ビデオ撮影:佐藤寛朗/2007-10-09