シュプリオ・シェーン 監督インタビュー
最も重要なのは個々の人間だと思うのです
Q: この映画を撮るきっかけを教えてください。
SS: 私が、以前に撮った『Way Back Home』は、インドの分割をテーマにした話でした。1950年に起こった戦争の傷跡が、未だに残されているのではないか、ということを、バングラデシュのある村を訪れた際に感じました。戦争そのものは、過去の話だけれども、その過去から現在まで続いているストーリーを、映画にしたいと思っていました。そして、そういった物語を探しているうちに、新聞を通じて、タンベイ夫人たちの事件の存在を知りました。
Q: この映画は、インドとパキスタンとの間の、政治的な問題を取り上げた作品ですが、同時に長い間、夫を待ち続けるタンベイ夫人の物語でもありますね。
SS: 政治的な側面というのはもちろん重要です。しかしそれ以上に、過去の問題が未だに現在の生活の中に残っている状況に対して、彼女たちは声を荒げるのではなくて、威厳を持って、前向きに信じることで闘っている。もちろんそういった状況におかれた女性の中には、再婚した人や、周囲から再婚を勧められた人たちも多くいました。その一方で、一部の女性たちは、夫たちの帰還を静かに待ち続けました。そのことに私は心を惹かれました。
Q: 作品中、テレビでは軍人の登場するメロドラマ風の作品が流れていますが、これにはどのような意味が込められているのでしょうか?
SS: あれはインドの映画なんです。たくさんと言うわけではないんですが、ボリウッドで製作される映画のなかには、愛国的で反パキスタンの映画がいくつかあります。映画の中の作品も、愛国的な物語で構成されていて、都合の良い情報を流し、愛国主義を鼓舞するという点でひどい作品です。しかし、私の作品の中で最も重要なことは愛国主義的かどうかということではなく、一人ひとりの人間の人生を描くことでした。つまり、そういう愛国主義を鼓舞する映画は、私の作品とは対極にあるものです。そういう意味で皮肉を込めていますね。
Q: 作品に登場する家族の悲劇について、どのようにお考えですか?
SS: ほとんどの国々は、他国との理解を深めようと努力しています。たとえば、ヨーロッパなどは、その点においてかなり進んだ地域といえます。しかし、私の国インドが、パキスタンと争っているように、一部の国々では理解が進んでいるとは言えません。私は、国と国同士お互いに理解しあうことが大切だと思いますし、さらに、もっとも考えるべきだと思うことは、各個人の重要性だと思うのです。あるひとりの息子が言っていたのは、父親が戦争に行って、国からその存在が忘れ去られたとしても、息子である自分は父親のことを忘れることはない、ということです。国と国との関係以上に、個人と個人の関係は大切なものです。人間の命は、土地やその他のものよりも重要で、そのことをきちんと頭に入れておかなければならないと思います。
(採録・構成:峰尾和則)
インタビュアー:峰尾和則、佐々木陽子/通訳:斉藤新子
写真撮影:西岡弘子/ビデオ撮影:西岡弘子/2007-10-07