ムハンマド・バクリ 監督インタビュー
アートで戦うということ
Q: あなたにとってエミール・ハビービーはどのような存在ですか?
MB: 一言で言えば友人です。そして精神的な父のような存在でもあり、恩師でもあります。というのも彼は責任感が強く、先見の明があり、よく涙する人でした。また人間の内面的な弱さを認めている人だったと言えます。さらに彼について重要な点がふたつあります。ひとつは彼の著書で、パレスティナについての非常に重要な書物『非楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』です。なぜ重要であるかというとまるでこの小説が、シオニズムというパレスティナにユダヤ人国家を建設しようとするイデオロギーに対する答えのようであるからです。シオニズムがイスラエルの国そのものだといえます。1948年にイスラエルが建国されて、パレスティナ難民がたくさん生まれました。シオニズムという思想がイスラエルを作り上げ、その政府のやっていることが、パレスティナ人の権利を奪い取ってしまったのです。イスラエル建国により、そこに住んでいたパレスティナ人の約90%が追放され、520くらいの村が無くなりました。小説の主人公は人間的に弱い人間で、犠牲者として描かれています。この小説が私たちにとって重要なので、私は1980年頃からこれを題材にしたひとり芝居をやっています。もう一点は彼にはユーモアがあったことです。ユーモアは芸術にとって非常に大事なものであるし、私は芸術にユーモアを取り入れることの重要性を強く感じます。というのは、芸術にとって大衆に訴えかけること、大衆に理解されて受け入れられることが大事だと考えるからです。
Q: 映画には、あなたの支えになっている人たちも登場しますね。
MB: 映画にはあまり登場しませんでしたが、イスラエル人でも私を理解し助けてくれる人はいます。しかしその数は非常に少なく、政府関係者はまずいません。むしろイスラエル政府は私を追い出そうとしていますから。映画に出てきたイスラエルの弁護士は、ユダヤ人ですが私を助けてくれます。それについては感謝してもしきれないくらい感謝しています。それから長男は私を非常に助けてくれ、息子ではあるがとても感謝しています。だが彼らが私を助けてくれることで、危険にさらされる恐れがあり、生活に支障をきたすのではないかと辛く思うことがあります。
Q: 悲惨な状況下にある人々に、芸術は何をなしうると思いますか?
MB: 眠ったように問題に関心を持たない人を、たたき起こすことができると思います。それから物語を語ることです。世界に対して、ここで起きていることを語ることもできます。パレスティナ人については、私のやっている仕事に対して感謝してほしいというか理解してほしいと願います。前作『ジェニン、ジェニン』の公開後、ジェニンの難民キャンプの多くの人たちがこういうものを作ってくれてありがとうと感想を述べてくれました。私の仕事が彼らの役に立ってほしい、そして救いになってほしいと思います。
(採録・構成:横山沙羅)
インタビュアー:横山沙羅、広谷基子/通訳:山本麻子
写真撮影:海藤芳正、清水快/ビデオ撮影:清水快/2007-10-09