ライアン・フェルドマン 監督インタビュー
祖母と孫ではなく友だちという関係になれた
Q: 15年もの間、まったく交流がなかったというおばあさんにカメラを向けようと思ったきっかけはなんですか?
RF: これまでずっと疎遠になっていた祖母と近づくことができたのは、祖父の葬式の時でした。その時に祖母が私のところにやって来たんです。そこからすべてが始まりました。私は亡くなった祖父のことを何も知らなかった、ほとんど何の接触もないままあの世へ行ってしまったんです。これは祖母に関しても同じような状況になりえる、という気持ちが芽生えてきて、祖母と何らかの関係を築きたいと、すぐに思ったんです。もうひとつの背景として、私は当時地下でひとりで住んでいて、家族ともまったく連絡を取っていませんでした。祖母の方も姉妹がすべて亡くなってしまい、ふたりともとても孤独な状態でした。だから、よけいにお互いの心が求めあっていたのかな、というような気がします。
Q: 久しぶりの再会にもかかわらず、おばあさんとの会話はとてもフランクなものですね。
RF: 一言でいうと、お互いが何も知らないがゆえに、オープンになれるという状況があると思います。向こうも私のことを何も知らないし、彼女も私のことを何も知らない。ただし、私たちは血縁関係で結ばれているわけですから、そこにはしっかりとした信頼関係というものが当然初めからありました。そして何よりも一番の救いだったのは、祖母が本当に自分の気持ちを正直に、最初から自分の気持ちを正直に伝えてくれたことです。これにより、彼女とより深い信頼関係を築けているのではないでしょうか。また、15年間という空白の期間があったがゆえに、私たちは祖母と孫という関係ではなく、友だちという関係が築けたということもあります。お互いに気を使ったりとか、フォーマルな形で接する必要もないですし、まったく互いの心を許せる関係を結べたというのはおもしろい経験でした。
Q: 何年もの間おばあさんにカメラを向けていて辛かったこと、カメラを向けるのを止めたくなった時はありませんでしたか?
RF: 祖母が精神的にとても辛い状況になって泣き出すということが、実際にカメラの前で起こるのを見て、それも撮り続けていいのだろうかと思ったことは、何回もありました。しかし、考え直してみるとそれが彼女の本当のスピリットなのではないのだろうかと思ったのです。祖母はカメラが廻っていることを知りながらも、自分の感情を隠さないで泣いたりしている。それは私から見るとある意味彼女にとっての勇気ではないかと理解するようになったのです。その彼女の勇気、正直さ、純粋さというのをカメラに収めることができた気がします。しかし、祖母の尊厳というのは守りたかったし、歳をとり、認知症が悪化するといった、彼女が持つ弱みに彼女自身が負けてしまったというふうには、見せたくありませんでした。祖母は弱ってきていましたが、見る人は、祖母のスピリット、祖母の魅力的な人柄、私たちがいまだに持ち続けている非常に珍しい関係を楽しんでいます。人々が笑う時、彼らは祖母の弱さをあざ笑っているのではなく、どんな個人的なことをも超えた、人生の不条理さを笑っているのです。この映画が、世界中のどこに行ってもわかってもらえる映画であることを願っています。それが私の目標でした。
(採録・構成:丹野絵美)
インタビュアー:丹野絵美、河田こずえ/通訳:今井功
写真撮影:海藤芳正、清水快/ビデオ撮影:海藤芳正、清水快/2007-10-06