マナットサック・ドークマーイ 監督インタビュー
映画作りで大切にしていることは自分自身に忠実であること
Q: この映像との出会いから、作品作りまでの経緯を教えてください。
MD: 私は、フィルムアーカイブで働いているため、こういった映像を見る機会がありました。もともと実験映画から映画制作を始めたので、ちょっと試してみようと思ったのです。ナレーションは、偶然にもこの映像と同じテープに入っていた「黄色い葉の精霊」(タイ北部の少数民族)についてのものですが、ナレーションにまず出会っていました。このナレーションに出会ったことは、運が良かったと思っています。音楽は、事件のあった1970年代に人気の出た、シンプルな楽器でシンプルなラブソングを歌っていた「チャートリー」というバンドのものです。それで、まず音声テープを制作してから、映像を合わせました。音楽を聴くのも好きなので、そうした中で自然に融合した作品であり、結果、このような実験的なドキュメンタリー映画となったのです。
Q: この作品の背景にある監督の思いは?
MD: もともと歴史の本を読むのが好きで、どうしてこの「血の水曜日」のような事件が起きたのか、疑問に思っていました。そしていろいろな資料を読むうちに、この歴史的な事件には、かなり混乱した点があったのだということを知りました。タイではこの事件を忘れよう忘れようとして、社会の中で話題にしないという風潮がありますが、そのことにも疑問があります。タイトルは、曲のタイトルでもありますが、もちろんこの事件を忘れないようにと願ったものです。
映画制作をする上で一番大切にしていることは、自分自身に対して忠実であること。もしかしたら、自分に無理をして作ったほうがいいチャンスが得られるかもしれないのですが、第一に自分らしいことをする、自分が好きなことをしたいと思っています。その意味で、私は反体制側からの視点で映画を作ることを大事にしています。編集している時間が好きで、幸せですが、この作品では編集すればするほど、映像から痛みを感じていました。作品中の私自身の言葉は、いい方法ではないのですが、痛みに対してやられたらやりかえすかという気持ちで入れてしまったものです。次回作では、「右派礼讃」のような皮肉な手法で、右側からの撮り方をしてみようと思っています。
(採録・構成:遠藤暁子)
インタビュアー:遠藤暁子、石井玲衣/通訳:高杉美和
写真撮影:鈴木隆文/ビデオ撮影:尾原由紀/ 2005-10-10