林啓壽(リン・チーショウ) 監督インタビュー
現実のほうがおもしろかったりします
Q: 映画を撮る前に監督が考えていたものと、できあがった映画とでは、どういうところが違うのでしょうか?
LC: 失われようとしていく、布袋戯(ボテヒまたはブータイシ、台湾の伝統的な人形劇)を撮っておきたいという考えで撮影を始めたのですが、彼らは私が考えていた芸術だとか文化だとかということは、考えていませんでした。「食べていければ、悩みはないよ」と言っています。芸術や文化といったものは、周りの人間が想像しているもの、観客が求めているもののイメージであったように思います。
はじめは彼らの苦労していること、跡継ぎがいないことなどを、インタビューしようという考えがありましたが、実際に彼らと話していくと、そういった撮り方は違うと思いました。彼らの仕事について行き、そこで撮影をしました。
Q: 監督と布袋戯との関係とは、どういったものなのでしょうか?
LC: 台南のほうが古い文化が残っているので、よく観に行っていました。無くなっていくものなので残しておきたいと思い、撮らせて、とお願いしていたのですが、没落していくものとして撮られたくないという人が多く、断られました。そこで陳さんに出会って、撮影が実現できたのです。撮りたいと思っても、応えてくれる人がないと成立しないのです。
Q: ドキュメンタリーについてどう考えていますか?
LC: ドキュメンタリーは、他者への関心の道具だと思ってはじめましたが、そのうち自分自身を理解していないのに、他者を考えたり、思ったりするドキュメンタリーは、表面的なものだと思いはじめました。他者を撮ることで、冷静に自分を見つめることになるのではないかと感じています。迫っていく撮影の方法をとらず、その状況を撮り、感情を入れていこうとは考えていません。だから、映画を観る人それぞれが感じればいいなと考えています。特別、共感させたいという意図はありません。最近台湾では、ドキュメンタリーを撮る人が増えてきて、盛り上がりをみせています。それは波のように増減を繰り返しながら、続いていくもので、悲観してはいません。
Q: 編集の段階で気をつけたことは何ですか?
LC: 実際にできるだけ近づけたいという考えがありました。もし、カメラがなかったら、この自分が撮ったものはどんななんだろう。つまり、撮っていない、カメラとか何にもない状態で、その行為、風景がながれていく状態を出したいと思いました。淡々とした中に、風の音のリズムが力強く感じられるように、大切に表現しました。そして長さ、区切りも意識しました。私はひとつの映画を観るということは、一冊の本を読むのと同じことだと思います。映画のワンシーンが、文のワンフレーズであるとしたら、映画におけるカメラというのは言葉なのだと思います。本を読んでいる時に、句読点が入ることでリズムができるのと同じように、映画を観ている時にも同じ感覚で、区切りを意識しています。
Q: 次回作は?
LC: この映画祭の間、自分の今までの映画には女の人が出てこないことに気づいたので、次回作は女性をメインにと考えています。
(採録・構成:西谷真梨子)
インタビュアー:西谷真梨子、加藤絵万/通訳:遠藤央子
写真撮影:鈴木隆文/ビデオ撮影:楠瀬かおり/ 2005-10-10