鍾鍵(チョン・ジエン) 監督インタビュー
世代から世代へつなぐもの
Q: お母さんの故郷を一緒に訪ね、それを作品にしたのはどうしてですか。
ZJ: 家族というものを通じて、歴史を理解したい、と思ったからです。母が実家に帰ったのは7年ぶりでした。普段、母は便利な都市での生活を送っていますが、やはり故郷に対する気持ちには、特別なものがあると思います。そのような母の姿や、彼女の語りを通じて、その同世代の人が経験してきたことを理解したかったし、作品を通して、それを次の世代へとつなげていきたかったのです。
また、作品の中では、母というものを、具体的な母としてではなく、象徴として描こうと思いました。母の世代は文化大革命など、様々な出来事を体験してきています。母を象徴として描くことで、母を同じ世代の多くの人に通じる存在として描きだしたかったのです。
Q: 作品では、お母さんのいきいきとした表情がとても素敵で、監督とお母さんの仲の良さが伝わってきました。
ZJ: 日ごろから、母とはなんでも話し合える友だちのような関係です。お互いに隠し事はないし、何かあった時には、支えあったり、励ましあったりします。だから、作品を作ったからといって心境が変わることはありませんし、僕と母との関係が変わることもないと思います。世の中には変わっていくものが数多くありますが、親子の情や、家族の愛などは、変わらないでいて欲しいと感じますね。
Q: お母さんが「私の秘密を話したのだから、あなたも話して」と言っていた、映画の最後のシーンは印象的でした。
ZJ: 実は今年、僕はこの作品の、母へのプレゼント用バージョンを作ったんです。「あなたも話して」と言われたことをその作品に盛り込んで、母にプレゼントしました。とても喜んでくれたので、嬉しかったです。
この作品には、ふたつの意味があります。母に贈るという意味と、将来の自分の子どもに贈る、という意味です。たとえば、自分が結婚して子どもが20歳になったころ、自分が育った家庭や、僕の母、今の自分の姿を、作品を通して自分の子どもにも伝えることができます。また、その時には、母はもう老いていて、この時話したことや、何があったのかを忘れてしまっていたとしても、この作品をみることで、思い出せるのです。映像を使って、世代から世代へと、大切なことを伝えたいし、つないでいけるのだと思います。
Q: 作品を作ることが、世代から世代への橋渡しとなるのですね。
ZJ: はい。僕は、自分の周りや、身近な生活を撮りたいと思っています。これは、世界を知ることの第一歩だと思うからです。自分を知り、近くにあるものを知っていくこと。そこからだんだんと始めたいです。
現在、中国では、特に若者の間で、歴史の認識においてとても極端なところがあります。これは、文化大革命を経験したことが大きいと思いますが、この時代をまったく良くないものだと完全に否定してしまう人がいる一方で、まったくそのことについて知識がなく、何も知らない人もいます。歴史の本当の姿を知らずに通り過ぎてしまうことがとても多い中で、僕は、消えてゆくもの、もう否定されたまま二度とは帰ってこないようなものを記録し、記憶にとどめ、残しておきたい、と考えます。中国の数千年の歴史の中で、現在に残ってきたいいものは必ずまだたくさんあるはずです。それを、次の世代へつなげたいと思いながら、僕は映画を作っています。
(採録・構成:高山真理映)
インタビュアー:高山真理映、丹野絵美/通訳:樋口裕子
写真撮影:鈴木隆文/ビデオ撮影:宍戸幸次郎/ 2005-10-10