ヨハン・ルンドボーグ 監督インタビュー
そこにある光で、それぞれの人生を映しとる
Q: 移動販売車を撮ろうと思ったきっかけは何でしたか。
JL: 僕は、映画に出てくる町で生まれ育ちました。移動販売車と一緒に大きくなったんです。彼らはいつもヒーローで、毎週金曜日に車が来ると買い物に行きました。それから、スウェーデンの田舎町では、大きなチェーンスーパーの影響で小さな店が次々と閉店に追い込まれているので、移動販売車は大きな存在です。もちろん食べ物を売って回るのが役目なのですが、もっと大きな守護天使のような働きもしていました。心臓発作を起こした人を見つけて、救急車を呼んでくれたこともありました。
この移動販売車の映画を撮ろうと思って、お客さんたちの撮影を始めました。僕の祖母にも登場してもらおうと思っていました。アルバートの撮影もしていたのですが、彼は電気も水道もない家に住んでいて、とても印象的でした。その時に、偶然祖母が老人ホームを訪問することになりました。アルバートもまた、祖母と同じように老人ホームに入ろうか考えていることがわかりました。ふたりは社会的階級もまったく違うけれども、同じ問題にぶつかっていました。僕の頭の中でふたりが結びついて、この企画が膨らんでいったのです。
Q: 登場人物のひとりのグレタは、監督ご自身の祖母だということを上映後の質疑応答でおっしゃっていました。アルバートとは、どうやって関係を作っていったのですか?
JL: 撮影を始めた時は、内向的だったので難しい作業でした。最初の頃は、お母さんがとても恋しいとか、偉大なる母の愛を受けていたとかいう話を聞いていました。それが撮影も2、3年目に入ると、少しずつ、もしかしたら彼はあまり幸せではなかったのかもしれないと思いはじめました。それで僕もさらに質問をして、彼ももっと話してくれるようになりました。時には、これはあまりにセンシティブなことだから話したくない、と言われたこともあります。3年撮影しましたが、この間に深い関係を築いていったと思います。私は撮影のために彼を訪ねるのだけど、彼は客として私を迎えてくれていました。というのは、彼は他にあまりお客さんもなかったので、話し相手を求めていたんです。僕はある意味それを利用していました。もちろんドキュメンタリーを作るものとしては、友人関係と仕事のことは区別しないといけません。ひとりの人間としてはつらいところですが。
Q: アルバートの暗い部屋と、グレタの色鮮やかな部屋の対比が鮮やかでした。意図的にこうしたのですか?
JL: 人工的な光は使わないで、そこにある光をそのまま使いました。アルバートの部屋は非常に暗かったので、カメラマンによっては照明を持ち込むところかもしれませんが、そうはしたくなかった。というのは、彼はあの暗い部屋に座っていて、世界から忘れ去られようとしている。そんな彼の人生と立場を、そのまま映しとりたかったのです。結果として、あの暗い画面が彼の置かれた状況を象徴して見せてくれたと思います。
Q: 今後もスウェーデンを拠点に作品を作る予定ですか。
JL: はい。この映画の中の移動販売車は、20年間使われていたのですが、持ち主の息子さんが新しい車を買うんです。とても前向きなことです。この田舎町ではすべてが小さくなっていっているのに、この人は未来のために投資しようとしている。この父子の映画を、今年秋には撮り始めたいと思います。劇映画も撮りたいので、今、脚本を書いています。
(採録・構成:曳野渚)
インタビュアー:曳野渚、早坂美津子/通訳:王愛美
写真撮影:阿部明子/ビデオ撮影:小山大輔/ 2005-10-08