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YIDFF 2003 第18回国民文化祭・やまがた2003 ドキュメンタリー映画フェスティバル
えてがみ
内田伸輝 監督インタビュー

ほんの少しだけ見えた自分自身


Q: 撮影には何年かけたのですか?

UN: 2年半です。鍋山が「えてがみ」の個展をやるまでを、漠然とひとつのゴールとして考えていました。彼は個展をやりたいと言っていたので「是非、やってくれ」と勧めて、撮影の間中、映画の伏線作りも考えて個展に言及しました。もうひとつは、鍋山が30歳になるまでということです。だいたい2年はかかるだろうから、30歳までに個展をやって欲しいなあ、という気持ちでした。

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Q:「えてがみ」について話してください。

UN: 鍋山はたぶん中学生頃から描いていたと思います。「えてがみ」って、年賀状で葉書にイラストを描いて送ったりすることの延長上にあると、僕は思っていますが、彼はそういうことを、昔からマメにやっていました。

 僕らがビデオや写真を撮っても、ありのままの姿は映りますが、鍋山が筆で描くことで、例えば顔が似ていなくても内面が描けてしまったり、ちょっとしたしぐさが似ていたり、人柄が映し出されてしまったりすると感じていました。描いてもらった人が、写真よりもリアルだと言って喜んでくれるのが、僕もとても面白かったです。

Q: 作品の中に、監督が登場するシーンがありませんでしたが?

UN: 出演した鍋山と功丈(ヨシタケ)が、精神的にかなり不安定になって、僕も相談を受けたりしたので、お互いに意見を言い合う場面もあったし、自分にカメラを向けたこともありました。だけど、この作品で僕自身の意見を述べなくてもいいのかな、と思ったのです。2人の間を見ている自分がいる感じにしたかったのです。2年半で160本撮ったので、他にもフィルムに無い、いろいろな事件があったのですが、どうしてもストーリーラインから外れたところにあるので、編集の段階で全部カットしました。

Q: 2人の家族も登場しませんが?

UN: 撮影しませんでした。もっと長い期間撮っていれば、家族も撮ったかもしれませんが……。僕らは30歳前でこういうことを始めて、いつ終わるかも、成功するかも分からない、そんなドキュメンタリーだったんです。親に迷惑をかけたくない、不安に思われたくないという気持ちがありました。それに僕は劇映画が好きなのですが、劇映画には登場人物を追うことで、彼の家族は出てこなくてもにじみ出てくる、というものが良くあります。ドキュメンタリーなので生身の人間だけど、家族を写さずに家族を感じさせる作品にしたいと思っていました。

 また、最近のドキュメンタリーに良くある、監督が出て、泣いて感動してというパターンにしたくないと思っていました。全体として、劇映画風ドキュメンタリーを目指しました。

Q: 編集はどれぐらい時間をかけたのですか?

UN: 1カ月です。最初は仕事をしながらのんきに編集していたら、鍋山が「そろそろ完成しないとヤバイんじゃないの。仕事休んで編集したら」と言ってきたんです。「仕事は休めないよ」と言ったら、彼が生活費を寄付すると言うので、「じゃあ休む」、と仕事を1カ月休んで編集しました。

Q: 『えてがみ』を作ったあと、変わったことはありますか?

UN: 今までの作品は、楽しくは作っていたけど、人に見せるものではなかったので……。試写会では泣きそうになりました。

 また『えてがみ』を作った後、仕事以外でも作品を作りたいと思うようになりました。自主映画の環境がとても恵まれたものになっていますし、これからも作っていきたいです。

 人は生きていく上でいい時も悪い時もありますが、2年半撮っていて、僕も鍋山もほんの少しだけいい状況になって、自分自身がほんの少しだけ見えたのではないかと思っています。

(採録・構成:黒川通子)

インタビュアー:黒川通子、岡安賢一
写真撮影:岡安賢一/ビデオ撮影:加藤孝信/2003-10-05 東京にて

内田伸輝監督 Webサイト